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覚悟君が戻ってきた。 新暦0074年10月。 あの日の約束を、ぎりぎり果たしたその日に、や。 そうは言うても、わたしだけの力とちゃうねんけどな。 わたしかて、ヘタな謙遜をする程度の日々を送ってきたつもりはないねんけど、一人じゃ単なる小娘やんか。 聖王教会の…カリムの強力な後押しがあって、ほんっとに辛うじてこぎつけた結果やな。 完成した隊舎の執務室にやってきた覚悟君と向かい合ったら、 おっきくなった背に、いろいろ言うてやりたくなったわ。 けどな、うち、覚悟君の言葉、しっかり覚えてるねん。 せやからな…戦士に、敬礼や。 覚悟君も、わたしに敬礼してくれた。 「…………」 「…………」 結局、それだけやった。 そのまんま、三十秒くらいして。 「じゃあ、みんな…呼ぶな?」 「頼みます、八神二等陸佐殿」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第八話『対超鋼・機動六課』 「みんなそろったところで、状況を整理してみよか」 「うん、そうだね」 「行き違いがあったりしたら、困るもんね」 「了解した」 今、いるのは、わたしとなのはちゃん、フェイトちゃん。 うちの子らはガジェット退治の応援その他に駆り出されてて、来週までは戻ってこられへん。 リィンも今は、そっちについていってる。 覚悟君とすぐに会わせられないのが残念やけど… あ、ちなみに、他人行儀は即刻禁止したで。 覚悟君だけそんなことやったら、なのはちゃんやフェイトちゃんにも、遠回しにそれ、押しつけることになるねんな? …それにな。 『勘違いしたらあかんて。 わたしらを結びつけるのは上下関係やない。 おんなじ、願いや。 戦う理由や…違うか? そう思うから、戻ってきてくれたんやろ、覚悟君』 『…相違なし。 謝罪する』 まあ、三年前は嘱託魔導師待遇(魔法使えないのにヘンな話やけど)で、わたしらの仕事、手伝ってもらってたから、 管理局の組織に正式に組み込まれることを自分で選んだ手前、組織の仕組み、ないがしろにできん思うたんやろな。 でもそれは、中身をしっかり守ってくれれば、形なんかどうでもええねん。 なのはちゃんにフェイトちゃん、シグナムたちもそうしとるみたいにな。 「…まず、どうしてカリムの、聖王教会の後押しが強まったのか? これは覚悟君が詳しいはずやな」 「強化外骨格、雹(ひょう)の発見ゆえに!」 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、息を呑んだ。 わたしだって、カリムから聞いたときは、同じやった。 あんなことが、あった直後やったから… 「野生の火竜が丸呑みにしていたものを、おれが回収した」 「それってつまり、この世界に飛ばされてきたのは、覚悟くんだけじゃなくて…」 「呼ばれたのは、強化外骨格そのものであるかもしれぬ」 なのはちゃんに応える覚悟君の目つきは、鋭かった。 「強化外骨格に宿るは、理不尽に蹂躙されし魂なれば。 カリムの予言の一節に符合せし部分あり」 古い結晶と 無限の欲望が 集い交わる地 死せる王の元 聖地より彼の翼が蘇る 死者達が踊り 中つ大地の法の塔は空しく焼け落ち それを先駆けに 数多の海を守る法の船は砕け落ちる 「踊る死者達、これ強化外骨格の瞬殺無音を意味するならば… ミッドチルダに吹き荒れるは、大殺戮の嵐!」 「地上本部への…」 「強化外骨格を使った…」 「毒ガス攻撃!」 真っ昼間の晴天なのに、雷が轟音を立てて落ちてくるのを、わたしらは確かに聞いた。 本部からの事情聴取では知らぬ存ぜぬで突っ張り通したけど、 わたしは確かに知ってる。 瞬殺無音がなんなのか、零(ぜろ)から聞いて、知ってる。 十秒足らずで都市ひとつ根こそぎ鏖(みなごろ)す。 姿無く、音も無く、匂いもせず、ただ瞬間的にやってきて、あとは原型をとどめない…化学兵器、戦術神風(せんじゅつ かみかぜ)。 「強化外骨格は…零(ぜろ)は、悪用されるの?」 「断じて否。 下郎にその身を許す零(ぜろ)ではない! 雹(ひょう)もまた我が父、朧(おぼろ)の超鋼なれば、不仁を為すこと、決してありえぬ」 「お父さんの?」 重々しく頷いて、覚悟君は続ける。 「零(ぜろ)、雹(ひょう)がこちらに存在する以上…現人鬼(あらひとおに)の纏(まと)いたる霞(かすみ)もまた在ると考えるべき! 外道に堕ちくさった散(はらら)ならば、強化外骨格の力、罪なき人の抹殺にふるったとて、何ら不思議なし」 フェイトちゃんが、ちょっと痛々しそうに目をそらしとる。 お兄ちゃんのことを「鬼」って呼んで、討つべき悪としてにらみ続ける覚悟君や。 たとえ冷たくされたって、虐待されたって、 それでもお母さんのこと信じ続けたフェイトちゃんには、やりきれないものがあるかもしれへん。 「でも、それをやるのが散(はらら)さんて決まったわけやない」 「だが、そう考えねばならぬのだ、はやて」 「これ見いや」 ウインドウを起こして、映像を再生する。 百聞は一見にしかずやて。 「これは、玩具(ガジェット)」 「三週間前の、ヴィータの戦闘記録や」 その日、現れたガジェットは、たった五体。 せやけど、その分、特別製やった。 数でタカをくくった地上部隊三十人が、あっさり片付けられてもうた理由は、 ヴィータがグラーフアイゼンで殴りかかった瞬間に、すぐわかった。 「…これは、まさか!」 さすがの覚悟君の顔色も、これには変わって当然やな。 あれの意味を知らなかった、なのはちゃんとフェイトちゃんだって、同じ顔したんやもん。 「わかるか、展性チタンや。 展性チタンの装甲を持った、ガジェットや」 ブースターで噴射しながら正面からぶち砕く、ラケーテンハンマー。 あれをくらって、吹っ飛ばされておきながら、ガジェットは表面が一瞬へこんだだけで。 装甲表面全体をぷるんと震わせた思うたら、元通りの形になって、元気ハツラツでミサイルを撃ってきた。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)で魔力が消されてまう上に、 通った威力、衝撃もこんな風に散らされるんじゃ、苦戦するのも当たり前や。 最終的に、ひとつ破壊している間に、残り全部に逃げられて。 「…わかるか、これがどういう意味か、わかるか?」 「展性チタンは、強化外骨格の装甲にのみ用いられし素材」 「せや。 強化外骨格の技術を解析してる、何者かがいるっちゅうことや。 もっと、聞くで? これ、放っておいたら、この先どうなるか」 「瞬殺無音の暴露…」 「わたしは、もっとおそろしいこと考えとるねん」 正直、口に出すのもイヤな可能性やけど、 目をそむけるのは、絶対にあかんねや。 だから、言う。 「強化外骨格の、量産や」 覚悟君の息が、数秒間も止まったのを感じた。 なのはちゃんとフェイトちゃんには、あらかじめ伝えておいた、一番悪い予想。 もしも…もしも、色々とタガの外れた人が、それを使って何かやらかすのなら。 そこから描かれる未来図は、この世の、破滅や。 「覚悟君だけの問題とちゃうねんて。 もう、とっくの昔に。 せやからな、探そう? 一緒に…止めなきゃいけない人達を」 「…了解。 おれの拳ひとつでは、因果は届かぬと認識した」 「うん、ええ子や」 一人で背負い込もうとするんは、覚悟君の一番心配なところ。 何も、覚悟君は、人類最後の戦士やあらへん。 支え合って、わたしらは、もっと強うなれるんや。 「…で、次は、一体、どこでそんな技術を解析しとるのか、って話になるんやけど」 「言いにくいけど、一番最初に思いつくのは…」 「零(ぜろ)だね」 なのはちゃんの後を、フェイトちゃんが引き継いで、はっきり言うた。 「ロストロギアに匹敵するものなら、管理局で解析するのは当然だから…問題は、その後」 「管理局から悪漢どもへ情報の漏洩ありと?」 「そうだとしか思えない。 そうでなければ、別の強化外骨格を… 覚悟の言っていた、霞(かすみ)を持っていると考えるしかなくなる」 「であれば…散(はらら)か」 覚悟君の拳が、きりりと握られた。 考えるな、ちうても無理なんや。 それは多分、覚悟君にしか背負えないものやから。 外野から、とやかく言えることと違う。 違うんやけど、でも、一人で背負い込むのは反対やし。 もし、対決に立ち会うようなことがあったら、わたし…何をしてあげられるんかなあ? …あかん、あかん。 今考えることとちゃうで。 「散(はらら)さんより現実的な危険は、獅子心中の虫やで、覚悟君。 姿も形もない霞(かすみ)より、現にある零(ぜろ)や」 直接的な表現を避けつつ、覚悟君流にむずかしい言葉をまぜてみる。 我ながら上出来やな。 「覚悟君、言うてくれたやんか。 零(ぜろ)は征くべき場所に打って出たのだ、って」 「…うむ」 「じゃあ、管理局外部に漏れてる展性チタンの技術。 これは、零(ぜろ)が撒いたエサとちゃうか?」 「!!」 ふふん、目つき、変わったやんか。 せやせや、男の子はくさってちゃダメやて。 「そろそろわたしらが、零(ぜろ)の声に応える番やて」 「敵の技術、零(ぜろ)ではなく、霞(かすみ)に由来していた場合は?」 「もし、そうなら…零(ぜろ)を取り戻す、立派な大義名分やんか。 そのときは、零(ぜろ)と覚悟君の、全力全開であたる時や!」 一人で行かせるとは限らへんねんけどな。 わたし、策士やねん。 覚悟君、それに気づいてるのかいないのか、わからへんけど… 「はやて」 「ん?」 「命令を! 機動六課が葉隠覚悟に!」 こういうツボ、しっかり心得てるとこ、ホンットにニクイわ。 覚悟君の場合、完っ璧、これが天然やから、なおさらや。 あのシグナムでさえ、なんと古風な…とか言うて笑うんやで? でも、闘志がわく。 「違うで、覚悟君」 「違う?」 「古代遺物管理部、機動六課が正式の名前や。 せやけどもうひとつ、わたしらにだけ見える三文字がある。 わたしらの背負う役目と同じように」 思い切りもったいぶって、気を引いて、 そして、力いっぱいに、名乗る。 「『対超鋼』! 『対超鋼』機動六課(『たいちょうこう』 きどうろっか)や!」 「対超鋼、機動六課!」 「たとえ相手がロストロギアだろうと、強化外骨格だろうと、 わたしらは一番最初に立ち向かって、一番最後まで立っている。 機動六課は、そういう部隊や」 居住まいを正す。 八神はやて、上官モードや! 「葉隠覚悟陸曹」 「はっ」 「貴官は本日より機動六課中枢司令部、ロングアーチに所属。 わたし、八神二等陸佐の直属として、対超鋼戦術顧問を命じる!」 「対超鋼戦術顧問、拝命いたします!」 「うむっ」 覚悟君の敬礼に、わたしも敬礼。 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、敬礼。 一人前の仕事をするには、まだまだ時間がかかるねんけど、 生まれたばかりの機動六課は、今、確かに歩き出してる。 (グレアムおじさん…見てて、な) 空の彼方に、そっと、祈った。 「是非もなし」 なのはが指揮する『スターズ』分隊の配属候補、二人の話になってすぐ、 覚悟はそう言って、なのはの選択を全肯定した。 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。 私となのはみたいに、ずっと、二人でやってきたっていうコンビらしいけど。 「両名すでに、恐怖超えたる器なり。 錬磨おこたらねば一廉(いちれん)の戦士たるも夢ではなし」 「さすが…直接見てきた覚悟君はひと味違うね。 でも、びっくりしなかった?」 「何が」 「スバルちゃんのこと」 覚悟にとっては、この世界での全ての始まりだったはずの女の子。 火事の中、生命を賭けて助けたこの子が今、機動六課に名前を連ねようとしている。 少しだけ、黙ってから…覚悟は、うなずいた。 「できることなら、平和の中に生きてほしかった」 それを聞けて安心したよ、覚悟。 戦いだけで頭が埋まっているような男の子じゃないって、三年前から知ってはいるけどね。 覚悟のあの強さは、聞けば五歳のときから仕込まれてきたものだっていうから。 …私も、境遇としては似たようなものだった。 だから、三年前、聞いたんだ。 辛くなかったか、って。 そうしたら。 『おれを宝と呼んでくれた父上の顔は、辛き日々を乗り越えし成果。 あの顔を見たくて、おれは頑張り続けていたのだと、あの時に知ったのだ。 おれほどの果報者、そうはおるまい』 私がついに手に入れられなかったものを、覚悟は手にいれることができて。 でも、一緒に辛いことを乗り越えてきたはずのお兄ちゃんに、そのお父さんが殺されて。 忘れろだなんて、言えるわけがない。 でも…それでも、私は、思うんだ。 大好きだったお兄ちゃんのこと、悪とか、殺すとか、そんな風に思い続けるなんて、哀しすぎる。 散(はらら)さんがどういう人か、まだ私は知らないけれど、戦いになるようなことは、できれば止めたい。 だけど、ね。 「だが、戦場にて勝てぬ大敵を前に一歩も引かなかった事実。 決意を身をもって示す者を前にして、おれに何が否定できよう」 小さく笑うなのはみたいに、私の意見も、覚悟と同じ。 『覚悟』に余計な口ははさめないんだ。 今は、何も言ってあげられそうにない。 「…採用、決定だね」 「二人の教練、くれぐれも抜かりなきよう!」 「何を言ってるのかな? 覚悟くんも教官になるんだけどなあ」 「む…」 「覚悟くんぬきじゃ、意味ないよ? 対超鋼戦術顧問さん?」 「…了解、未熟ながら死力をつくそう」 「うん、いいお返事。 じゃあ、まずはわたしに教えてね」 なのはが席を立って、覚悟もそれに続く。 三年ぶりの、話仕合(はなしあい)に行くんだね。 最後のあれは、確か… 『後の先を狙い続けて膠着状態に陥った場合、いかに敵を崩すか?』でもめたときだったっけ。 「零(ぜろ)は無くても、大丈夫?」 「あなどるなよ! 当方にカリムより賜(たまわ)りし爆芯『富嶽(ふがく)』あり!」 「そうこなくっちゃ! …フェイトちゃん、どうする?」 いきなり話をふられて、今までずっとぼんやりしてた私はちょっと反応が遅れたけど。 「うん、行くよ」 バルディッシュを握り締めて、私も立つ。 私の率いる『ライトニング』分隊、二人の資料をファイルにしまって。 エリオ・モンディアル。 キャロ・ル・ルシエ。 私の養子、二人。 『真に我が子を思っての決断なれば良し』 覚悟は、そうとしか言わなかった。 …言われるまでも、ないよ! レリック関係だけじゃなくて、私達が追うのは今や、強化外骨格に、謎の生物兵器人間… 死の危険が飛躍的に高まってきたのは、肌で感じる今日この頃だから。 そのために、私がいる。 なのはがいる。 むざむざ死ににいかせるような教練なんか、絶対にしない。 私も、エリオとキャロには、もっと安全に生きてほしかったけど、 二人の選んだ道には、きっとゆずれないものがあるはずだから。 だから、道半ばで倒れたりしないように、最後まで戦える力を、しっかりあげるんだ。 ―――『対超鋼』機動六課、動き出す日は、すぐ近く。 前へ 目次へ 次へ
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零式防衛術は敵を殺す技にあらず。 己が愛憎を殺す技なり。 されど、心を無視する技には断じてあらず。 怒りを胸に沈めてはならぬ。 両足に込めて己を支える礎となせ! 友情を胸に沈めてはならぬ。 両腕に込めて友を守る楯となせ! 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第三話 『轟心招来』 「…こんな話をしてたんよ、うち」 退院した覚悟君を誘って、今、お茶してるんやけど、 この恋、実るかフラれるかは即日決まるところやで。 零(ぜろ)には黙っていてもらって、うちの口から全部伝えた。 覚悟君をもの扱いしたことを。 零(ぜろ)をもの扱いしたことを。 それで。 「ごめんなさい」 頭を下げて、謝った。 そんでそっから、さらに調子のいいことをぬかすんや。 ホンマ、最低やな。 「もし、覚悟君が許してくれるなら… そのうえで、一緒にうちらと戦ってくれるなら…お願いしたいんや」 これ以上は何も言わない。 いくら飾り立てたって、結局全部うちの都合の話やから。 というか、覚悟君の目を見てると、どんな言葉もかすんじゃう気がするわ。 すっごく澄んでるんよ、透明なんよ。 素直な気持ちだけで話すしかあれへんねん。 それから少しして、覚悟君から返ってきた返事は。 「忠誠無くして同じ禄(ろく)を食むことなどできませぬ」 「…そっか」 「ですから、一介の食客としてご協力申し上げたく思います」 「え…?」 「零(ぜろ)と共に日本へ帰ることだけが望みでありますれば」 この言葉を要約すると… 零(ぜろ)のそばから離されさえしなければ手伝ってもいいよ、別にお給料もいらないし。 でも、ご飯と住む場所お願いね。 …あかん、我ながらミもフタもなさすぎや。 でも、これって、現実的な範囲で最大限の協力やんか。 「ごめんな、零(ぜろ)は管理局の管理になってもーたから…」 「無理もありませぬ。 それよりむしろ、あなたが手元に留めおいてくださったことを感謝せねば」 「零(ぜろ)と話せるの今のところ、うちだけやしなー。 リィンと同じ扱いなんよ」 「零(ぜろ)は今?」 「うちでお留守番の守り神様や。 90キロは乙女の細腕にはキツイて」 覚悟君にしてみても、零(ぜろ)と離れないためには管理局に協力するしかないねんな。 考えてみれば、最初っから人質をとったような取引やなー。 でも多分、覚悟君のことだから、納得いかなければ零(ぜろ)を取り返して逃げるやろ。 管理局員の責任としてそれを許すわけにはいかへん。 ひっどい話や思わんか? だからこそのお願いや。 約束は絶対に守る。 「うん…ありがとな。 家とかは、うちが責任もってどうにかするわ。 生活費も出す…必要なら、お金たかってもええよ。 最大限の身の軽さは約束するて、管理局に縛られんように」 「お手数をおかけして、申し訳ありません」 「ちょっ、謝るんはうちの方やて! もー覚悟君と話してると恐縮してまうわー それにタメ口でええよ、管理局入りしないんなら上下関係無いやろ」 覚悟君、少し迷ってから、首を縦にふってくれた。 「…了解、これよりは友人として扱う」 「ええ子や」 そうそう、お姉さんの言うことは、素直に聞くもんやで。 第一、十三歳のくせに折り目正しすぎやて… 十五歳で自分の派閥作ろうとしてるうちが言うのもアレやけど。 大人になるって、ホンマ、イヤやわ。 その後は、覚悟君をうちの家に連れてきて、 なのはちゃん、フェイトちゃんも一緒にお話することにした。 もちろん、零(ぜろ)も一緒や。 そのためのうちの部屋や。 前から話してて、明らかに食い違ってるのがわかる部分があったから。 「それじゃあ、覚悟君のいた日本は…」 「二十一世紀初頭の大災害にて全世界もろとも壊滅状態」 「…違うね。 わたしとはやてちゃんの日本は、今日も平和だよ?」 どうも、考えている以上に根が深い問題らしいわ。 管理局に知られている第九十七管理外世界…つまり、うちらのいた地球と、 覚悟君のいた地球は、また別の世界ちうことになる。 そんな話、聞いたことないて。 どないしたらええやろ? さすがに覚悟君の表情も暗くなった。 「鬼が解き放たれている…早く帰らねば」 「…鬼?」 「現人鬼(あらひとおに)、散(はらら)。 強化外骨格を得ると同時に、やつは腐り果てた。 人など守るに値せぬと…討たねばならぬ」 みんな、何も言えなくなった。 覚悟君のひどいケガ、その散(はらら)という人にやられたことは聞いてた。 シャマルも覚悟君のうわごとを何度か聞いてたらしい。 だけど少しして、なのはちゃんが、突拍子もないことを言い出した。 「好きだったのかな、その人」 「何故?」 「悲しそうな顔したよ、覚悟くん」 覚悟君の表情がこわばったのを、うちは確かに見た。 『なんという感受性…覚悟の裏腹の痛みを見抜くとは』 零(ぜろ)が関心したように息を漏らしてる(?)… ここで聞こえているのは、覚悟君と、うちだけなんやけど。 「余計なことを言うな、零(ぜろ)」 覚悟君が声を荒げるの、初めて見たわ。 …や、それでも、授業中のおしゃべりを注意する先生レベル、なんやけどね。 心を乱したのを恥ずかしい思うたんかな、覚悟君、ちょっとだけしおしおとして座り直しとる。 「父殺しを、兄とは思わぬ…気遣い無用」 「………」 覚悟君、それ、もっとヘビーやで。 つまり、散(はらら)さんは覚悟君のお兄ちゃんで、 覚悟君は、実のお兄ちゃんにお父さんを殺された、いうことやんか。 なのはちゃんも、途方に暮れた顔になってもうた。 仲直り、できるうちにしたほうがいいよ。 そう言いたかったんやね。 でも父殺しって…無茶や。 もう、言葉が見つからへん。 みんな、お通夜みたいにうつむいてる。 そのまま、永遠に続くか思うたわ。 「少し、身体をほぐそうか」 高町なのははそう言って、おれを表に連れ出した。 八神はやてに、零(ぜろ)をわざわざトランクに詰めさせて。 連れてこられたのは時空管理局が訓練施設。 立体映像を具現化させ、実物の廃墟そのままの戦闘領域を再現。 まさに、魔法の産物なり。 そして、ここに来たならば、やることはひとつであろう。 これより同志となるならば当然ということか。 「覚悟くんの強さ、わたし、知りたいな」 彼女は不敵に微笑み、胸元の宝玉を天に掲げた。 轟 心 招 来 レイジングハート セットアップ 白き聖闘衣 着装確認。 あれは高町なのはが超鋼(はがね)なり! 「来なよ…零(ぜろ)さんも一緒に」 「爆芯靴のみ着装にてつかまつる!」 知っているのだ、Sランク魔導師に管理局からの制限あり! 強化外骨格がロストロギアに相当するなれば 全身着装では同じ土俵にあらず。 トランクより射出されし零(ぜろ)の脚部、着装! 覚 悟 完 了 「当方に戦闘の用意あり」 「どこを殴ってもいいよ。 顔も、お腹も。 そのかわり、わたしも容赦しないから」 「当演習の勝利条件は?」 「お互い納得いくまで!」 「了解!」 …結論から言おう。 この高町なのは、確かに実戦における先達なり! 距離を詰めさせぬ戦いに習熟しており 障害物の間隙より狙い来る狙撃は精妙の域。 直撃すれば一撃にて戦闘不能は確実! その威力打撃系なれば、零式鉄球が異物防御、まるで意味をなさず! されど零式防衛術は必勝すべき拳なり。 壁を走りて跳びて、想定される狙点へと先回って打ち込むは、 「零式積極重爆蹴(ぜろしき せっきょく じゅうばくしゅう)!!」 「フラッシュ・インパクト!!」 …読まれていた! 蹴りに蹴りをぶつけられ、両者反動にて距離拡大! 長き距離は全面的に高町なのはの味方なり。 攻撃が届かぬということは無限大の装甲を纏われるも同じ。 レイジングハート砲発射態勢確認。 このまま狙い撃つつもりならば。 「ディバイン・バスター!」 「爆芯!」 推進剤噴射にて飛び上がる。 打ち下ろされし光柱すれすれ三寸わずか! 高町なのはの直下より地を蹴りて肉薄し、水月へ直突撃(じきづき)極めるなり。 気づいたところでもう遅い。 砲口向けるその動作、まとめて威力として返す! 「因果!」 直撃せり。 高町なのは、吹き飛びて廃墟に激突。 白き聖闘衣の上一枚、はじけて消えたり。 なるほど、こうして常人ならば死ぬ威力に耐えうるものか。 だが、聞かねばならぬ。 彼女の元へ近づきて、その身を起こす。 「けほっ…強いね、覚悟くん」 「なぜ、高空より狙い撃たぬ」 「えっ?」 「当方の爆芯にて到達不可能な高空にて狙撃すれば あなたの完封勝利であった」 「それは、覚悟くんの方がよくわかってると思うけどな。 どんなときも、勝てばいいってものじゃないよ」 「………」 高空より狙い撃ちて砲の角度過(あやま)てば 廃墟へ直撃、崩落せしめんこと必定。 もし逃げ遅れた人々、中にて肩を寄せ合いふるえておれば… これは仮想現実なり! なればこそ最悪の可能性想定せし動きをとらねばならぬ! 「覚悟くんだって、建物壊して視界ふさげばよかったのに、しなかったよね?」 「…もう一戦、よろしいか」 「次は勝つよ」 その勝利宣言に嘘は無し。 二分後きっかり、わが五体、光芒に包まれたり。 勝率が五分と五分にて拮抗した頃、 気がつけば暮れなずむ夕日を共に眺めていた。 「ちょっとは、すっきりした?」 出し抜けに声をかけてきた高町なのはは、まだ止まらぬ鼻血をぬぐっている。 その言葉に反射的にうなずき…そして、恥じる。 わが心中に立ち込めたる暗雲振り払うべく、この女性は計らってくれたのだ。 「鬱憤は溜めちゃダメだよ。 毒になって、もくもく吐き出しちゃうんだから」 「おれは未熟だ…」 「そんなことないよ。 自分の力でどうしようもないことがあれば、当たり前だよ」 「それでは駄目なのだ。 零式は己をこそ殺す格闘技なれば」 「おのれを、殺す?」 「心に愛憎あらば敵につけ入られよう。 そうでなくとも、いつか己自身を鬼へと墜とすことになる」 「その弱さも含めて人間だよ、覚悟くんも。 大切なのは、間違った自分にダメって言える気持ち。 心がひとりぼっちだと、どんどんそれが見えなくなっていくんだよ」 ふと思い出す、空港火災を。 あのとき、限界を超えてわき上がった闘志は おれの後ろにいた娘とその父の心に触れて初めて知ったもの。 一人で戦っていると思ったら大間違い、か。 ならばこの出会い、感謝すべき運命(さだめ)であろう。 「…友達に、なろう?」 かざりものの言葉は不要。 ただ伸ばされたその手をとるだけでよい。 おれは、おれのやり方で友情を証明しよう。 戦いしか、能なき男なれば。 向こうから、八神はやてとフェイト・テスタロッサ・ハラウオンのやってくる姿が見えた。 前へ 目次へ 次へ
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覚悟を選びて半年後、またも倉庫の暗闇に逆戻りとは。 解き放たれた戦略兵器を恐れるは当然。 時空管理局の封印処置もむしろ全面的に支持するものなり。 我らが瞬殺無音、盗み取ろうとするものはとり殺すのみなれば! だがこれしきで、覚悟の強さを封じられたと思うたか。 覚悟の強さは我らの強さにあらず! そして今、目に見えぬさらなる超鋼をまとっておるなり! 我ら、ただ再び目覚めるその時を待ち続けるのみ。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第六話『葉隠禁止(後編)』 『零細胞より酸素緊急供給! 同時に造血開始!』 覚悟くんの身体がすごい勢いで回復していくです! 『すごいです、零(ぜろ)! すごいです、強化外骨格!』 『当然なり! 我らこそ覚悟と一心同体! 初心のきさまに遅れはとらぬ!』 「零(ぜろ)、リィン、おれの戦闘可能時間は?」 …と、覚悟くんが聞いてきたですね。 おしゃべりしてる場合じゃなかったです。 一足先に零(ぜろ)が答えてくれました。 『目下、緊急加療中なり。 十分…否、五分以上の交戦は避けよ』 「五分以内に幕引き了解!」 やっぱり覚悟くんに後退の二文字なしですね。 なら欠損した脳細胞機能、リィンが必死でカバーしなきゃです。 激しく動き回ってる最中にズッコケたら大変ですから。 『リィンよ、零細胞が脳を補填するまでの間、頼んだぞ!』 『頼まれたです!』 『それにしてもなんたる失態! 覚悟ともあろうものが、きさまの手を借りねば戦えぬまでに打ちのめされようとはな!』 『…………』 なんで、つっかかるですか? 『帰り着いたら今一度、戦士の心得なんたるかを問い直させてもらうぞ、覚悟!』 「合点承知なり」 『必ずだぞ、忘れるな、覚悟よ』 「了解」 秒速270mのスピードで外に飛び出す覚悟くんに、 ぶっちゃけ零(ぜろ)はちょっとしつこいと思ったです… 「ぶああああ~ しつこい! 今日はもう店じまいだよ~」 でも、このオバケには、しつこくしなくっちゃダメですね。 放っておいたら、また誰か死んじゃうですから。 バカでっかい身体をずかずか這わせて、こっちにカメラ向けてきたです。 真っ昼間の遊園地に、こんなヘンなの、場違いです、粗大ゴミです。 「だからぁ~ また来てね~~」 「否! 本日限りにて閉店なり!」 「オフで撮るのは女の子だけだぁ~」 「ならばおれが写してやろう! きさまの真に撮るべきものを!」 キマッてます、カッコいいです、覚悟くん! けど、そうは言っても、どうするですか? これはいちおー、聞いておかないと… 『覚悟くん、零(ぜろ)、まわりにはまだたくさん人がいるですよ?』 『なるほど、敵方の熱線砲、回避すれば流れ弾にて大被害と言いたいか! 見かけによらず頭は回るようだな、リィン!』 『見かけは関係ないです、なんでつっかかるですかーっ、ドクロ軍団』 なんでいきなりこんなふうにムカッとくることばかり言うようになったですか。 もしかして、リィンのおうちからケリ出したのをネに持ってるですか? おうちを間違える零(ぜろ)の方が悪いですよ、あれは。 どれだけビックリしたと思ってるですか… そ、そんなことよりアイツのカメラですっ。 『とにかく、そういうことですけどーっ』 「了解、ならば問題はない」 『でも、よけられないですよ?』 「おれと零(ぜろ)にはむしろ好都合!」 『刮目して見ておれ!』 ビシッと構えて動かない覚悟くんです。 なんだか楽しそうですね、零(ぜろ)。 ちょっと、気持ちはわかるですよ。 はじめてマイスターはやてと一緒に戦えたときのリィンと、きっと同じだと思うですから。 ひどい実験から零(ぜろ)が生み出されたことは聞いたです。 そんなことを二度と許さないために、実験に殺されたみんなが意志になって宿っているのが零(ぜろ)だっていうことも。 そんな痛さ辛さをわかってくれた、零(ぜろ)のために泣いてくれた覚悟くんをマイスターに選んだことも。 そんな人のために戦えるのなら、うれしくないわけないですね。 「しょお~がないから撮ってやる 本日最後の 熱 写 暴 威 」 「生涯最後と修正せよ!」 来たです、怪人のカメラビーム。 覚悟くん、零(ぜろ)、全然よける気なしです! なら何か、プロテクションとか、そういうので防御する気ですか? する気なしです! 腕を広げて大歓迎です! リィンと一緒に真っ黒焦げです、バーベキューです! 信じていますとは言ったけど、正直これはキッツイです! …とか、思ってたら、覚悟くん全然無傷です。 零(ぜろ)も平然としてます。 『ど、どうなってるですか?』 『節穴だな、リィン! 目に見えなくば音に聞け!』 『…あ』 気づいたです。 ジュージューブスブス音が鳴ってます。 覚悟くんの目を通して見えました。 腕や足の装甲が真っ赤に光って… 全 身 赤 熱 『彼奴の熱線砲の出力、すべて我がものとして流用したのだ!』 『だ、大丈夫なんですか、こんなことして』 『もとより我らが機能なり、一切無問題のこと』 少し得意げに零(ぜろ)が話してるところに、オバケが近づいてきました。 「いいね~その色 今頃中身は真っ黒焦げかな~」 オバケは覚悟くんが死んじゃったと思ってるみたいですね。 たしかに普通はそう思うですね、多分。 「これがきさまの撮影行為か」 「…ななっ、なぁぁ~~っ?」 カメラ怪人がビックリ怪人になりました。 拳を固めた覚悟くんが腰を引くのを見て、 あわてて逃げて行こうとしてるですけど、どー見ても遅いです。 「ならば当方にも撮影の用意あり!」 「きゃあああ~~~っ プライバシー侵害反対…」 「 因 果 !!」 特大が、極まったです。 「あッぶるッ?」 弾かれるみたいに地面から飛んだ覚悟くんの拳が怪人の顔面にめり込んで、 燃やしながら全部バラバラにブチまけたです。 どこが撮影なんだか、リィンには全然わかりません。 でもいいんです、覚悟くんカッコイイですから。 「おのれの醜さもわからぬものに芸術を云々する資格はあるまい!」 …できれば、もうちょっと…いろいろと飛び散らない倒し方にしてほしかったですけど。 でもこいつ、人間だったですかね? 今頃になって気になるです。 「南無」 『南無』 『…ナムです』 死んだ人がユーレイになったりしないように祈ってあげるです。 はやてもたまにやるですから、リィンも知ってるですよ。 『次に生まれてくるときは、ヒトを食べたりしないでくださいです』 「そのための因果。 地獄で魂を清めてくるがいい」 覚悟くんが、後ろに振り向いて構えました。 リィンも零(ぜろ)も気づいてるです。 ガジェットがあちこちから覚悟くんの回りを取り巻いてるです… 『覚悟くんが狙い、ですかぁ?』 『否、それでは常に監視を受けていたことになろう。 敵意の視線に気づかぬ覚悟ではない!』 『じゃあ、いったい』 「関知せぬ。 いかな企み背後にあろうと、平和への敵意に他ならぬなり!」 『…ですね!』 「邪心には因果あるのみ!」 『です!』 ぱっと見だけで標準型のガジェット八体。 囲まれちゃうと楽勝にはちょっときついんですけど。 「零式、積極! 直突撃(じきづき)! 肘鉄(ちゅうてつ)! 手甲(しゅこう)! 掌底(しょうてい)! 肉弾(にくだん)! 膝蹴(ひざげり)! 延髄(えんずい)! …踏破(とうは)!」 足が地面を蹴ったと思ったら、あとは流れ作業の覚悟くんでした。 瞬殺です。 リィンもユニゾンしてなかったら目で追えなかったと思うです。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)があってもぜんぜん関係ない覚悟くんは 普段でもガジェットを素手でボコボコ壊して回るんですけど、 零(ぜろ)を装着したら、そんなもんじゃなかったですね。 ド カ ァ ァ ァ ン 最後の一体を踏みつけて飛んだと同時に、全部一緒に爆発したです。 覚悟くんすごいです、ヒーロー番組です! …けど。 『まだ来るですよ? 四、五、六…』 「すなわち一網打尽」 『だが制限時間は残り一分! それ以上は後遺症の恐れありと知れ!』 「悪質玩具の始末など、三十秒で釣りが来る!」 『それでこそ覚悟!』 ほんとは今すぐ倒れてもおかしくない覚悟くんなのです。 ものすごく強い精神(こころ)があるから、身体が壊れそうでもへっちゃらで動き回るですね。 今のリィンは一心同体ですから、わかるですよ? だから、ちょっとした独断行動です。 覚悟くんと零(ぜろ)が、ボッカンボッカン壊してるスキをついて… ボッカンボッカン壊してやってくるヘンなヤツがいます? こっちにシャカシャカ走ってきてるです? 「また遅刻しちゃったー」 今度は女のヒトみたいですけど、やっぱりデカイです。 手がたくさんあって、虫みたいな足もたくさんついてて、 お腹が顔になってて… そんなことより、腰(?)につけてる四つのポシェットの中身。 …ヒトの、首です。 苦しそうな顔をした生首が、ぎっしり詰まってるです。 「またも怪人!」 『玩具と交戦するとは、別組織ということか?』 「あれ、激写(うつる)やられちゃったのー? アハハごめーん あたしダメなのよ B型だから」 「…疾(と)く答えよ。 きさまの所属組織、そして、きさまの所持する鞄の中身」 覚悟くんがにらみます。 リィンだってにらむですよ。 ヒトが死ねば、誰だって悲しいんです。 たとえ関係ないヒトだって。 それを、こんな、ヘラヘラしてるのは、許せないですよっ… 首だけにされた人達を見るにも、さっき覚悟くんが倒した怪人のバラバラ死体を見るにも… ヒトが死んだ姿を笑いものにするやつは、許しちゃいけないです。 ゼッタイです。 「もぉ~ こまかいこと気にしないの あなたA型でしょ? 几帳面なヒ・ト」 覚悟くん、無言で構え。 リィンも、無言で構え。 『我らと同じ怒りを抱いたか、リィン』 『…はいです』 『なれば我ら、心はひとつ!』 悪 鬼 討 滅 覚 悟 完 了 『でも、覚悟くんはオヤスミの時間なのです』 「…なに?」 『覚悟くんだけが覚悟完了じゃないですよ?』 リィンが呼んだ、みんなが来たです。 リィンだけじゃないのです。 みんなの心がひとつなのです。 右と左から来る爆発音を聞くですよ。 ガジェットの破片をぶちまいて最初にやってきたのは… 「世話を焼かせるヤローだな!」 「ヴィータ!」 「病人は下がって見てな、あたし一人でも充分すぎる」 その後ろから迫ってきてたガジェットを鉄拳でぶっ壊したのは… 「それは無しだ、ヴィータ」 「余計なことしてんじゃねーよ、ザフィーラ」 「おまえがそれでどうする! そこの覚悟を戒めに来たのだろうが」 「…ちっ」 ヴィータちゃんのグラーフアイゼンが鉄球を打ち込むたび、ザフィーラがひとつ跳ねて殴るたび、 残り少なくなったガジェットが、あっという間に消えていくです。 覚悟くんに、手出しをするヒマなんかあげません! 「あ、あ、あ、あなたたち、あたしぬきで話進めてんじゃないわよぉ~ B型のあた~しは、とって~も短気なのォ~!」 「貴様など知るか!」 「おひょっ?」 怒り出した怪人は、ザフィーラに振り向かれもせずバインドされました。 鋼(はがね)の軛(くびき)でグサリグサリ。 光のトゲで地面に縫われて、もうピクリとも動けませんね! 我に返った覚悟くんがトドメを刺そうと拳を振り上げます…が、やさしく掴まれて止められました。 後ろからきたシャマルにです。 となりには、シグナムもいます。 「葉隠覚悟、おまえは半年もの間、我らと共に何を見ていた?」 「…平和を! 守るべきものを!」 「そうか。 ならば我らと同じだが、ひとつおまえは読みが浅い」 つかつか歩いて、怪人に向かっていくシグナムを、覚悟くんは見ています。 握った拳はまだ下ろさずに、じっと、後ろ姿を見ています。 「八神家で寝泊まりし、我らと共にあった時点で、 すでにおまえの生命はおまえ一人のものではない。 おまえが決死に臨んだとて、我らがそれを縛るだろう。 おまえの生命は我らのものであり、はやてのものであるからだ」 『血迷ったことを! 覚悟は誰のものにもあらず!』 「知っているぞ零(ぜろ)! 知っているとも…だからこそ! わかるように言ってやろう…いいか?」 抜きはなっていたレヴァンティンを鞘に収めて、シグナムは言いました。 「おまえは不滅だ。 我ら四騎が、おまえの死を決して許しはしないのだから。 おまえが誰のために戦おうとも、我らの勝手は変えられまい? だからな…」 少しだけ顔を振り向かせて、小さく笑ったです。 「あまり、一人で格好つけるな。 くさくて見ておれん」 「………」 覚悟くん、なんともいえなくなっちゃったですね。 握った拳がほどけたところに、シャマルが治癒魔法をかけ始めました。 ガジェットはもう全滅してます。 ずいぶん静かになったです。 あと、うるさいのは…アレだけです。 「うげげっ、うごけなひ…うごけないけどB型のあた~しはこりない女! わざわざ剣をしまっちゃうなんて、あなたもマイペースのB型…」 お腹についてる顔の口からシグナムに向かってゲロ吐いたですけど、 単にエンガチョなだけで終わったですね。 すでにシグナムは空中ですよ? 「貴様など わが剣の錆となる価値すら無し!」 跳躍、空中、開脚、捻転 ――― 破!! 魍 魎 轟 沈 し ず め ばけもの (かかと おとし) 「いざべら!!」 …まっぷたつ、です。 ポニーテールをなびかせて空中をひらひら舞ったシグナムのカカトが最後にぎゅんと音を立てて、 怪人の頭をまっぷたつに裂いてまき散らしました。 何ごともなかったように着地して、こっちに戻ってきたシグナムは、 またちょっぴりだけ笑って、覚悟くんと健闘を称え合ったです。 「道の先達に未熟な技を見せつけるほど、みっともないことも無いが… 私の蹴りも、捨てたものではないだろう?」 「あなたほどの者ならば、魔法に頼らずともいずれ!」 「すまんな、これが我らの研ぐ牙だ」 「今一度、立ち会いたくなった」 「一度と言わず何度でも来い。 今までそうしてきたようにな…だが」 そこで言葉を切っちゃって、アゴでくいっとシャマルに合図。 まかされたシャマルが後を継いだです。 「今は、ゆっくり、おやすみなさい。 静かなる風よ、癒しの恵みを運んで…」 もう、完璧に戦いは終わりました。 安全です。 数分して、覚悟くんはその場に座り込んで気絶しました。 シャマルの静かなる癒しに包まれながら… 『戦士の休息を認める!』 おやすみです、覚悟くん。 「…おやすみな、覚悟君」 「はやて」 「ごめんな、覚悟君、ごめんな…」 六日後、おれの目覚めをまずは喜んでくれたはやては、 共に悪い知らせを携えてもきた。 強化外骨格、零(ぜろ)の厳重封印、正式に決定さる。 超鋼着装せしおれの戦力判定は、魔導師に換算してSSに達していた。 魔力なき人間にこれほどの威力を発揮させる存在に、管理局は危機感を抱いたというのだ。 「わたし、零(ぜろ)を守れへんかった。 持って行かれるのを、だまって見てるしかなかった」 管理局の手に零(ぜろ)を引き渡したのは、他ならぬ、はやて。 もはや彼女には管理する権限の無きゆえに。 …すなわち。 「何を泣く。 はやて」 「…覚悟君?」 「零(ぜろ)は、征くべき場所へ打って出たのだ! おれたちは急ぎ追いつかねばならぬ!」 零(ぜろ)はすでに高き権限なくば触れられぬ位置にあり。 なれば、何を為すべきかは決まっていよう。 おれはすでに決めているのだ。 はやて、あなたはどうか? 「……ははっ」 少しの間、呆けたように沈黙したはやては、 思い出したように笑い出す。 「あははっ、はははははっ」 快活なる笑み。 将たるもの、そうでなくてはなるまい。 さもなくば、ついてくる者もついてこぬ! 「…せやな! 寂しがって泣いてたら、零(ぜろ)に笑われるわ!」 「それでこそ、はやて!」 「うん!」 湿気った空気は一掃。 決意はからりと日本晴れに限るなり! 「三年や!」 「三年!」 「三年で、わたしの城をつくる。 時空管理局の一角を張る、わたしの部隊や!」 幾度か聞いたはやての夢。 助からぬ人々を助けようという理想。 それは今この場にて、現実となるを約束されたり。 そして、おれも。 「旅に出る!」 「旅!」 「葉隠一族のとるべき道は、平常心にて死ぬことに非ず。 非常心にて生き抜くことにあるなれば!」 「家族ごっこは、今日で終わりやな」 「忘れえぬ安らぎであった。 次に共に立つときは、ただ一介の戦士として!」 戦士、はやてに敬礼。 かりそめの家族は、もはやこれまで。 おれが背負うのは父の拳と誅すべき鬼(あに)! …だが、そんなおれの両肩に手を置いて、はやては言ったのだ。 「じゃあ、最後にひとつだけ、お姉ちゃんぶらせて、な?」 「…了解」 「ええか、これから先、これだけは絶対に取り消すことはあれへんで。 葉隠、禁止や」 「葉隠禁止?」 「覚悟君だけの生命やないねん」 おれの胸を、彼女の平手が軽く叩いた。 「ここにあるのは、みんなの生命や。 高鳴っているのは、みんなの、鼓動や」 「………」 「感じた?」 ―― 感じる。 高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラウオン、 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ…むろん、八神はやて、あなたも。 束の間出会った人々も… クロノ・ハラウオン、ヴェロッサ・アコース、 そして…あのときの空港火災、瀕死のおれに、螺旋に打ち勝つ力をくれた、あの父、あの少女! 「背負いし生命、確認! 宿りし熱き鼓動、確認!」 「うむ、ええ子や! これにてお姉ちゃん終了!」 「次に出会えば、共に戦士!」 「歩く道は違うけど、目指す先は同じや」 「また会う日まで、さらば!」 病み上がりとて問題なし、思い立ったが吉日なり。 病室から立ち去るおれを、はやては黙って見送ってくれた。 しかし、見送りはそれのみならず。 病院一階ロビーより外に踏み出せば、そこには、 なのは、フェイトに、八神家の面々。 「なんとなく、こんな気がしてたんだ」 「なのはに黙って出て行くのは無理だよ、覚悟」 苦笑するフェイトに、なのはもうなずく。 「止めるのか、おれを」 「違うよ、見送りに来たの。 それにシャマルさんが、旅に必要なものも多いだろうって」 「急いで用意したから、水筒と磁石とシートくらいしかないけど… あと、お金、いくらくらいいるかしら…」 「これを持っていけ、覚悟。 これを見せて私の名を出せば、聖王教会に渡りをつけることができるだろう」 「あ、私からはタオル…清潔にしなきゃダメだよ? クロノもそうだけど、男の子はすぐ臭くなっちゃうから」 「リィンからはお布団です! でも覚悟くんにはハンカチですねぇ…」 皆に囲まれる、おれ。 申し訳ないが、失笑を禁じ得ぬ。 まさにこれゆえに、おれはここを離れねばならぬのだから。 「すまぬ、皆。 皆がやさしすぎて、おれには持ちきれぬ。 少し、身を軽くしたく思うゆえ、厚意を粗末に扱う無礼を許してくれ」 「…そうか、ならば何も言うまい。 私は身ひとつで行くおまえを信じよう」 そのようなおれに対し、シグナムの言はすでに皆の総意であった。 …ただ一人を除いては。 「あたしは信じてねーんだよ」 「ヴィータ…」 「だから、これ、貸す。 貸すんだからな?」 進み出たヴィータが差し出したのは、どうやら、うさぎのぬいぐるみ。 おれにはやや理解しがたい面妖な風体だったが、 その古び方は、長年大事にされた証しでしかありえぬ。 「ぜってー返せよ。 返さなかったら…殺すかんな」 「…了解した、生命に代えても返却しよう」 またひとつ、心を預けられてしまったか。 確かにおれだけの生命ではないな! どこまで行こうが逃げられぬ。 おれをからめ取ったのは、そういう宿命! ならば、覚悟完了するまで! 皆に背を任せ、おれは起つ――― ――― そして、月日は流れる! 前へ 目次へ 次へ
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本日の献立は! …肉じゃが! おひたし! ぬか漬け! 味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。 配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか? ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり! シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。 ザフィーラに猫まんまの用意あり。 全員…そろった、準備よし。 いざ! 「いただきます」 強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。 今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第四話『葉隠禁止(前編)』 あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。 シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。 クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。 大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、 死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。 それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。 最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。 わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。 怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ! あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。 もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。 シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。 「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」 入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。 「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」 おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。 「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」 なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、 「本日まで、まことお世話になりました」 荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ! 完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな! その後、はやてに本気で怒られた。 「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」 全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、 明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。 帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。 「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」 それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。 今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。 はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。 戦力としては、くやしいけど認める。 うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、 正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、 「積極!」 「紫電!」 同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。 「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」 「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」 「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」 「主はやてを置き去りに散ってしまったか」 「不甲斐なき也(や)!」 「私もだ!」 なに、固い握手してんだよ。 戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。 それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、 弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。 回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。 おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。 だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。 零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、 シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。 ま、そんなこんなのそんなこんな。 全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。 クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。 んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。 だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。 はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。 ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。 『スーパー・リアル・アサルト3』。 最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。 遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。 うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。 だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、 「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」 向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ… 「なにやってんだよ、撃てってば」 「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」 「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから! そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」 「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」 「だーっ、アホヤローッ」 銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、 あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。 あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。 ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。 ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。 それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。 「…今のは!」 「民間人だな、撃つとワンミス」 「なんだと…」 「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」 「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」 んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。 一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。 「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」 「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」 弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。 ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。 「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」 「自害なり」 大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな? 「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」 「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」 「首魁(ボス)!」 また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。 嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って… 「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」 「問題なし」 「はぁ?」 「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」 もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。 その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。 「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」 何が悪かったのであろうか。 てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、 昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。 …なにゆえ、皆は笑うのか? シャマルに、リィン、シグナムまで。 「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」 「お腹が痛い?」 「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」 食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを シグナムの両手に軽く制された。 「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。 むしろその馬鹿正直さは好ましい」 「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」 「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」 「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」 笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。 皆の微笑みが、これほどに暖かければ。 ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。 その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。 「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」 ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。 「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」 『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』 零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。 やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。 零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。 ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。 「にしてもよぉー、もうちょっとよー」 『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』 「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」 荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、 ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。 「あたしが困らされてんだよ、こいつに! とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」 「よくわからぬが、申し訳ない」 「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」 ではどうしろというのだ。 半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。 彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、 日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか… 「ほなら、しゃーないわぁ」 はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。 彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが… 「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」 「お化け屋敷?」 「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」 「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」 奇っ怪至極! 遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。 先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか? 「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」 「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」 …なぜ笑う、シャマル、シグナム。 これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。 お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり! 「征くぞ!」 「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」 「待て、っつの」 突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、 またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。 「止めるな、ヴィータ」 「あたしも行くってんだよ」 「怖くはないか」 「ざけんな」 「良し!」 やはり彼女も戦士であった! ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷! 「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」 ―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。 「覚悟くんたら、もう、ねえ?」 「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」 『侵略行為が行われている!』 「…なに?」 『半径50m以内、室内なり』 「なん、だと」 『追うのだ、覚悟を! はやてを!』 「言うに及ばず!」 「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」 「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」 「い、いやだあっ」 「お肉も脱いでスマイル!」 「ぎゃっ、ぐぶげっ!」 「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」 「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」 「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」 「助け、うげぇっ」 前へ 目次へ 次へ
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駆けつけた現場は、あの日のような、火事だった。 今日のあたしは無力じゃない。 おかあさんとギン姉からさずかったシューティングアーツがある。 陸士訓練校で一緒にがんばったティアと、他のみんなもそばにいて… そう、あたしは戻ってきたんだ! 炎の中に! 無力な誰かを助けるために。 あの日、あたしを抱いてくれた腕と拳にあこがれて、 追いかけ続けて、走り続けてきた毎日。 まだまだ背中は遠いけど。 護(まも)るんだ、あたしの五体(からだ)で! 止めるんだ、切ない悲鳴を! 「行くわよ、スバル」 「うん、ティア」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第七話『昴』 ミッドチルダ南部、スラムの近郊、廃工場。 突然地下から現れた炎は、劣化した建物をすぐさま呑み込んで、 まわりの空き地にも火が回り始めた。 あたし達防災課が現場に到着したのは、外から火事が確認された七分後。 問題なのは、この工場周辺で、行方不明者が多発してるっていうこと。 ここ一ヶ月で十六人が姿を消していて、うち一人は事件調査に乗り出した管理局地上部の捜査官。 「火を消すだけなら建物を壊せばいいけれど」 「もしかしたら、中には行方不明の人達が!」 延焼する建物内へ強行突入、誰かいないか限られた時間で隅々まで調査するのが、今回まかされた任務。 あたしのシューティングアーツの突破力と、ティアの精密射撃放水で、道のない道を切り開いて、進む。 繰り出す拳、踏み出す足にかかっているのは、助かるかもしれない人達の生命だから! 炎におののいてなんかいられない! いられないんだ! 「スバル、突出しすぎ!」 「でも急がないと!」 「私達に求められているのは、よく探すこと! 急いで見過ごしたら悔やんでも悔やみきれないわよっ」 …また、ティアに言われちゃった。 突っ走りすぎるのを止めてくれるのは、いつもティア。 けど、あたしは知ってる。 ティアの胸には、絶対負けない夢が、静かに燃え続けてる。 こんな火事なんかより、ずっと、熱く。 だから、ティアと一緒になら消せない火なんか無い。 乗り越えられない壁もない。 あたしは、そう信じてる。 「…ねぇ、あれって」 「だ、大丈夫ですかっ?」 誰もいないことを報告しようと脱出する間際に、ティアが見つけた。 焼ける工場機械のそばで顔を押さえたままうずくまっている、首輪をはめた男の人。 そこの床に広がっていた黒いシミのわけは…助け起こして、すぐにわかった。 あまりのひどさに、あたしもティアも、ひきつった喉で息を吸い込んだだけだった。 「顔が…ない?」 「はがされたの、これ?」 起こした顔には、顔がなくて、むきだしの目がひからびてて。 鼻だった場所や、ほっぺただった場所から、どろどろになった血が垂れて。 「お、おーえん、か」 「生きてる!」 「今すぐ、外で応急処置を…」 「にぃ、逃ぃげら。 おぇ、ひ、火ぃ、つけて、やっと、ん逃ぃげ、た」 歯や喉がむき出しになった口から話される言葉は、舌が足りなくて。 そして、なによりも… 「……ぉ…ご、ご、うぇん…」 生き延びる生命(いのち)が足りなかった。 ここにつくまでに、足りなくなっていたんだ。 のこした言葉は、聞き取れなかった誰かの名前と、 多分、その人に対する、ごめん。 「スバル…」 「…まだだよ。 蘇生処置をするんなら、まだ遅くない!」 あたしが助かる見込みだって、ほとんど絶望的だったんだ。 こんなところであきらめがよかったら、あたしの今までに意味なんか全然ない。 「二手に分かれましょう、スバルはその人を急いで外に!」 「ティアは?」 「一人いたなら、まだまだいるわよ生存者! 私が探すから、早く戻って来なさいよ? もう、火が…」 うしろからすごい力でひっぱたかれたのは、そのときだった。 あたしもティアも壁まで飛ばされて、くずれた瓦礫に埋まりかけた。 もちろん燃えてる。 急いで低出力放水したティアに水をかけられながら後ろを振り向くと… あたしは、焼け焦げかけた熱さなんか、またあっさりと忘れた。 「ダァ~リィ~ン あたしのダァ~リィ~ン こんなところにいたのね。 ベッドから逃げ出すなんて、恥ずかしがらなくてもいいのにぃ」 さっきの男の人を手づかみにして、顔をベロベロなめている女の人。 …ちがう、人じゃない。 女かもしれないけど、人じゃない。 背丈と体格がブルドーザーくらいあって、ほとんど裸のヒモボンテージで こんな火事の中を平気で歩き回る人間なんて、いるわけない。 それに、あの胸…乳首のところに縫いつけてあるのは、人の顔。 「あいつが、あの人の顔を…」 「なによこれ? こんなのが、この世にっ」 「いなくなった人達、まさか」 あたし達の見ている前で、そいつはあっさり答えを見せてくれた。 どうして、あのとき動けなかったのか。 悔やんだって遅かった。 あまりに現実離れした光景に、足がすくんで動かなくって。 「ひっとつっに、なりましょおーっ」 男の人は、頭からがりがりかじられた。 しぶいた血は、あっという間に蒸発して黒いススになっていく。 「これぞ究極の愛のカタチ! あたしは破夢子(はむこ)~っ あなたととこしえに苦楽をともにすること、誓うわよぉーん!」 もうダメだった、腰がぬけて立てなかった。 ティアの様子も気になったけど、目が、あの怪人に釘付けになって、動いてくれない。 全部たいらげた怪人が、あたし達に、気づいた。 近づいてくる。 足音が、すごい。 重い。 「そぉ~ あなた達の仕業ね? ダァ~リンを外に連れ出したのは? 二人がかりでダァ~リンをたぶらかしたわねぇー?」 「…し、知らない、その人、知らない」 「おーだーまーりー! 愛を引き裂く者はゆるされないのよぉ~ 女王様のカカトをお浴びっ」 また、あたしは、おびえるだけに逆戻りしてた。 助けて、とすら思わなかった。 死ぬんだな、って思った。 その一方で、死にたくないって、歯をガチガチ噛み合わせてた。 あの日、以下だ。 三年間、何をやってたの? あたしは何をやってたの? ティアと頑張ってきたのも、こんな、無茶苦茶な世界の前では、まるきり無駄な努力? 絶望 絶望 絶望 踵(かかと) 絶望 遠ざかる背中 絶望 終わる生命(いのち) 絶望 嫌(いや) 嫌(いや) 見たくない 見たくない 目を閉じても消えない現実 非情! あたしの心は、完璧にくじけてた。 もう、死ぬ以外になかった。 だけど、次に上がったのは、あたしの断末魔じゃなくて。 「がばちょべばばばば!」 横から顔を殴られるみたいに転がされていった、怪人のうなり。 なんだ? と思ったら、やっと首が動いた。 すぐ右で、ティアが、怪人に向けて放水してたんだ。 最大出力で、コンクリートも砕く威力の反動を尻もちのまま受け止めて、 おしりを引きずって、ずりずり後退してた。 そんな勢いで出したから、ポンプの水も三秒で切れる。 切れた後になっても、ティアはトリガーをガチガチ引いてた。 肩で息をしながら、目を血走らせて。 「ティア?」 「こんなところで…こんなところで転べない。 こんなところで、私は転べないのよおっ!」 こんなところで、こんなところで。 そう、ひとつ言うたびにトリガーをひとつ引きながら、 ほとんど泣く寸前の顔で、ティアは。 そして。 「おごえええっ」 口を狙われて、しこたま水を呑まされた怪人は、 転げながら水とゲロをどばどば吐き出した。 大量の骨…どう見ても人骨。 その中に混じっていた、なにかちいさな固まりが、かぼそい声で、言ったんだ 「おにい、ちゃん…」 手らしい場所をかすかに動かし、前に這う。 こいつが生み出した新手の怪物かと一瞬思って。 気づいてみたら、ショックなんて言葉じゃ言い表せなかった。 原型をとどめないくらいに溶かされた、小さな女の子だった。 声を聞いても、少しじゃわからないくらいの。 「たす、けて…さむいよ、みえ、ない…おにい、ちゃん」 こればっかりは、あたしにもわかった。 …もう、助からない。 ここには助ける手段がない。 それまで生命を持たせることなんか、できっこない… そう思ったら、もう、ダメで。 悲しいとか、やるせないとか、色々気持ちはあったけど。 「大丈夫、大丈夫だよ」 「おにい…」 「お兄ちゃんが、助けに来るから! それまで、あたしが守ってあげるから…だから!」 抱きしめた胸の中で、腕の中でこの子の身体は、ずるずると溶け落ちていく。 「だから、頑張ってよ…お兄ちゃんが来るまで、頑張ってよぉ」 「おにぃ、ちゃん…あったか…い」 顔ともわからない顔で、一生懸命笑ってくれたこの子の首は… ぼろりと落っこちた。 こわれた人形みたいに。 もう、動かない。 「…むぅ~ん」 怪人が、起きた。 それから、あたし達を見て、言った。 「ケーッ、吐き出されてんじゃあないわよぉ。 いい? あんたのお兄ちゃんはねぇ、あたしのお肉よお肉! あたしのお美腹(なか)の中にいれば、ずぅーっと一緒だったのにぃ」 この子は、動かない。 もう、動かない。 あたしは、立った。 ゆるせない 「止めないわよ、スバル。 私も、あんたと同じ気持ちだから。 こいつは…許しちゃいけない、絶対!」 ティアがとなりに立つと、 あたしは無意識に構えをとっていた。 これは、シューティングアーツじゃない。 左腕は敵の正中線上にぴたりと伸ばし、 右肘は後ろに弓をひく。 あの日の、あの人と、同じ構え。 あたしの心に焼きついた、正義の形。 「なぁーにが許さないよ、エラッソーに。 女王様のキャンドルサービスをお受け!」 常に動き続けるシューティングアーツとは相容れない 地に足をつけた『待ち』の構えだってギン姉は言ったけど、 あたし、今ならわかるよ。 この構えは、許しちゃいけないやつを倒す拳を放つためにある! あたしは こいつを ゆるせない! 吐き出される炎にはびっくりだけど、あたしの拳は勝つ! 正面から! 溜めの右、リボルバーナックルから薬莢をふたつ飛ばして、あたしは放つ。 閉ざされた空を拓(ひら)く拳。 神 聖 破 撃 ディバイン・バスター 『突破』、それ以外の何も考えず鍛え上げてきた一弾だから、 吹き付ける炎の風をまっぷたつに割って、あいつに至る道を作る。 そして、ブーツのローラーをフル稼動。 瞬時最高速。 あいつはもう一発、火を吐こうとしてるけど、 「させないっ」 「おふぎゃ?」 ティアがアンカーガンで鼻先を撃って止めた。 その一秒で、あたしはこいつの懐に入って、 さっきの右を振り抜きざま逆に溜めた左の素拳に身を沈め、 加速を乗せて、一気に放つ。 誰かの死を必殺するための拳。 「 因 果 (いんが)!」 入った水月(みぞおち)を、そのまま正面に振り抜ける。 めり込む拳の抜けたあと、手応えは充分。 「ごごげええええええっ?」 建物の壁をひとつ破り、ふたつ破り、 向こう側の空き地にまで怪人は吹き飛んで、大量のゲロを吐いた。 外には待っていた他のみんながいて、いきなりのことにパニックになっている。 あたしとティアは追った。 すぐに。 もう立てないだろう、ここで逮捕して、捜査班に引き渡す。 そう、思っていたんだ。 …でも。 五分後、あたしもティアも、ボロボロだった。 「痛かった、痛かったわよぉ~ よくも本気にさせてくれたわね」 地面に転がされたあたしは、もう立つ力も残ってなくて、 隣に放り投げられたティアも、それは一緒。 あたしが撃ち込んだ全力全開の拳は、今まで呑気にやっていたこいつを 本気で怒らせるだけに終わって… 踏み止まって、みんなを逃がすまで戦ったのが、あたし達の精一杯だった。 「お美腹(なか)が空いたわ。 あんたらなんかじゃ、あたしの愛の足しにもならないけど! バーベキューにして、おいしくいただくわよぉん!」 もう、二の腕さえも、上がらない。 これで終わりなの? あたしも、ティアも、真っ黒に焼かれて、終わるの? そんなの、いやだ、ゆるせないよ… 今、今、燃え尽きても、いい。 もう二度と動かなくてもいいから。 動いてよ、あたしの身体…動いてよ。 「あなたもあたしのお肉にするからぁ、 あたしったら、博愛・主・義・者! んじゃあ、美食(いただ)くわぁん、ウフフフフ」 「否! きさまの愛は侵略行為!」 …え? この、声… 「なによあんた? その女とどおゆう関係?」 「恩人だ! 私の生命の恩人なり!」 間違いなかった。 この声は、間違いなかった。 ちょっとだけ、力が戻った。 首を動かして視界を上げる… あの顔も、間違いなかった。 あの、構えも。 …違います。 生命の恩人は、あなたです。 だって、あなたがいなければ、あたしはいなかった! 「なぁにが恩人よ、邪魔すんならあなたから愛してあげるわぁぁん」 「その言葉、宣戦布告と判断する。 当方に迎撃の用意あり!」 葉隠、覚悟さん。 三年と半年前、あたしを全力で守ってくれた人が。 ずっと追いかけてきた憧れが、今、目の前に。 あのときのような黒い鎧ではないけれど、 そのかわりに、白い学ランのバリアジャケットと、 あたしと同じシューティングアーツのブーツを履いて。 「あたしは今、愛に飢えているのぉぉぉ」 「爆芯!」 ブーツから、カートリッジの薬莢が飛び出して、 怪人の突進に合わせて、猛烈加速。 そして、すれ違いざまに。 「 因 果 !!」 これで、全部終わってた。 怪人は、下半身だけ立ったまま、上半身はばらばらに砕け散っていた。 同じ水月への一撃でも、これがあの人だった。 残った怪人の下半身が背後で倒れたのだけ確認すると、 あの人は、こっちに、寄ってきた。 ブーツを星印のボタンにしまって。 完全に、武装を解いて。 それから、あたしを見て、言ったんだ。 「戦いの道を選んだのか、きみは…」 どこか、残念そうな声だった。 あのときと同じで、イヤな気分を顔に出したりしないけれど。 危険から救ってくれたこの人に、あたしはある意味、恩をアダで返したのかもしれない。 だけど、あのとき生まれた気持ちは、あたしの初めてのゆずれないものだった! 「…ずっと。 ずっと、あなたの拳を追ってきました」 言葉が、勝手に零(こぼ)れ出てくる。 気がつけば、無理にでも身体を起こして訴えていた。 「嫌だったから…弱いのが、守られるだけなのが、嫌だったから! だから、強くなりたくて、管理局を目指して、あたし…」 それが、あたしの決意だったはずなのに。 三年かけて、強くなれたはずだったのに。 …ああ、そうか。 零れ出たのは言葉じゃないんだ。 これは、涙だ。 くやしくて、泣いてるんだ、あたし。 「それなのに、それなのに…あたし、弱くて。 弱くて、弱くて、弱くて… 怪物が出たら、こわくて、すくんで… 守れなかった、誰も、守ってあげられなかった…あたし、あたしぃっ…」 力なく、地面を叩いて、すすり泣く。 みじめだった。 情けなかった。 そばで、ティアも泣いていた。 うつぶせになったまま、ぐすぐす鼻を鳴らしていた。 そんなあたし達に、あの人は。 「勝てぬ相手を前に一歩も引かざれば、すでに大敵『恐怖』に勝利したるなり。 おまえたちは今日、戦士の入り口に立ったのだ」 あたしとティアに、強く、命じたんだ。 「立つがいい。 戦士が立つのは己が力にて!」 あたしも、ティアも、うめくだけで動けないでいると、 あの人は、さらに強く。 「立て! おまえたちの戦士たる決意、その程度のものか!」 「…っ、言われなくても! あんたなんかに、言われなくても!」 「その怒り、両足に込めよ!」 がたがたふるえながら、前足を踏み出した。 あたしも、ティアも、一息に。 「弱きおのれへの怒りを込めよ! それで足りねば、身命賭した願いを込めよ!」 もう、弱いのは、いやだ。 ひとり、おびえて泣き叫んだ、あたし。 弱虫で、なんにもできなかった、あたし。 怪物を前にして、全然動けなくなって。 腕の中で女の子が、おもちゃみたいに壊れて… もう、弱いのは、いやだ! あたしの願いは、あたしの願いは! ティアが、立った。 あたしも、立つ。 もう、足は、ふるえない。 「立っておらねば遠くは見えぬ、歩けもせぬ。 立って、見据えよ。 征くべき道を」 見届けたあの人は、あたし達に背を向けて、 そのまま去っていった。 最後にあたしは、あの日、聞けなかったことを聞いた。 「お名前を!」 「…?」 「あなたの、お名前を。 あなた自身から!」 振り返って、あの人は、名乗ってくれた。 「正調零式防衛術(せいちょう ぜろしきぼうえいじゅつ)、葉隠覚悟(はがくれ かくご)。 …戦士よ、おまえたちの名は!」 「スバル・ナカジマ! あたしの拳は、シューティングアーツ!」 「ティアナ・ランスター、武器は…両手拳銃(トゥーハンド)!」 …その後。 十五分してやってきた管理局武装隊に、 立ったまんま気絶していたあたし達が発見されて。 気づいたら、ティアとベッドを並べて、二日経ってた。 これが、あの人との再会。 そして、機動六課での、戦いの始まり。 前へ 目次へ 次へ
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腑抜けていた。 完全無欠の油断であった。 なのは、フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。 皆、勝るとも劣らぬ使い手なれば、 日々立ち会うている己の強くならぬはずはなしと慢心していたのだ、おれは。 もっとも弱きは、己の心なり。 己に克たずして、零式の奥義無し。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第五話『葉隠禁止(中編)』 お化け屋敷でな、撮るよ~言われたら、みんなはどう思う? 遊園地なんやし、別にいてもおかしくないやんか写真屋さん。 とりあえずピースして、あとで気に入ったら写真買うてこくらいに思うのが普通やろ。 …血のにおいに気づかんわたしがバカやった。 突き飛ばされたわたしのかわりに、覚悟君が撮られた。 ばかでっかい頭と上半身、女王アリみたいな袋を引きずった下半身。 凝った扮装やな、思うとったのは、本物のオバケだったんや… 「大丈夫か、はやて」 「だ、大丈夫やけど…覚悟君、あの人は一体?」 「わからぬが先方に危害の意図あることは明白!」 がしゃがしゃと音を立てて電気がついた。 真っ暗闇が白色灯に照らされて…わたしは、そこでやっと気づいた。 いくら嗅いでも慣れない臭い、こんなところで嗅ぐはずのない臭いの正体。 隅っこに、気づかれんよう置いてあったのな…血まみれの、ドクロの山や。 喉まで一気に昇ってくる悲鳴―――― 「撮るよ~~」 「キャアアアア―――ッ」 「うわああああああっ」 ―――ちゃうねん!! わたしのやるべきことは、無力に悲鳴を上げることやない。 それしかできない平和な世界の人達を守ることやて。 悲鳴は丸呑み! すくみかけた足に一喝(かぁっ)! よし、動けるわ。 「はやては、ヴィータやリィンと共に民間人を避難させなさい」 「覚悟君、わたしも戦えるて」 「戦線を支えるには一人で充分! されど避難誘導には人手が必要なり! しかもここは閉所なれば、魔法よりも零式防衛術こそ最適任」 …せやな、言う通りや。 言う通りなんやけど、覚悟君の何ごともないような態度が、なんか引っかかるねん。 カメラ怪人さんの持ってるカメラ。 さっき覚悟君が撮られたカメラや。 あのカメラと、血まみれドクロの山…何か関係ある思わんか? 電気がつくまで、誰も気づかんかったんやで? こんなひどいことに… 「いいよ~そのポーズ、次はキミのカノジョと一緒に~スマイル~」 「はやては誰のものにもあらず!」 蹴りと一緒に即否定。 ナイス因果や覚悟君、わたしの耳も痛いわ。 それはともかく、できれば一緒に戦うべきや思うんやけど… 「くそっ、なんだよこいつは!」 「オバケですぅ~~っ」 電気をつけに行ってたヴィータとリィンが戻ってきたのに、 カメラ怪人が気がついた。 すでに撮ろうとしてる! 「決定的瞬間~ チィィ~ズッ」 「あっ、チィ~ズですぅ」 「このバカ、リィン…」 「零式積極重爆蹴(ぜろしき せっきょく じゅうばくしゅう)!!」 間一髪で、覚悟君の回し蹴りが怪人もろともカメラをぶっ飛ばした。 …やっぱりやな。 覚悟君、明らかに二人をカメラから守ったわ。 もう覚悟君は、わたしコーディネートのカジュアル形態から 零式鉄球を使ったバリアジャケット形態…どう見ても学ラン…にチェンジしとるけど、 あの学ランの白さのせいで、なおさらわかりやすいんや。 顔色悪いて! 「何をしている、早く民間人の誘導を!」 「ヴィータ、リィン、任すで! わたしはここで戦う」 「はやて! 何を言…」 「わからんて思うてるんか、覚悟君! あのカメラで何かされたやろ!」 「問題ない」 「ウソやッ」 覚悟君の強情のせいや。 こんなやりとりしてる間に、蹴飛ばされた怪人が壊れたセットの中から復活してきたわ。 わたしも変身する時間、あったはずなのに。 「ぶむぅぅ~~ん」 「…くっ」 「決定的瞬間を邪魔したなぁ~ パンチラゲット阻止したなぁ~」 「破廉恥!」 …サイテーや、ホントに。 でもまさか覚悟君、パンチラゲットされたから顔色悪いわけやあれへんし。 とにかく変身や。 とりかえしのつかんことになる前に。 カメラが壊れた今がチャンス… 「NOOOOOOO!! ミーの芸術を~~~ッ 芸術は自由なのに尊いのに~~~~~ッ フガ―――ッ!!」 「聞く耳持たぬ! きさまの芸術は侵略行為!」 「ミーのカメラは真実をうつしだすのだぁぁ~」 あかん! もうひとつカメラ持っとる! んで、どう見てもこれって…モデル、わたし? わたしがモデル? シャッター切られたらどーなるんや? 「強制おヌード!」 乙 女 の 危 機 や ! 「スマイル、スマァ~イル ハイ、チィ~ズ 熱 写 暴 威(ねっしゃぼうい)」 プロテクション…間に合わへん! 変身してさえいれば! 思わず身体をかばって目を閉じたら、身体がフワリ浮き上がった。 それを感じた瞬間、下からすごい熱風が吹き上げてきた…爆発やんか、これ! こんなのくらったら骨までおヌードや! …もしかして、そういうつもりなんか? 芸術をかさに着たチカンなだけやなく、それが人殺すいうんか? 少しして、音と光が抜けきった。 眼を開けたら、わたしを抱き上げてかばってる覚悟君がいた。 真っ青やんか、顔色。 紫色やんか、手の平。 「敵を前にして外野の女人を狙うか!」 「芸術家だ~もんね~ 撮るよ~ッ」 どうしてそんな顔色で、全然平気そうにしとんねん。 覚悟君、ロボットなんか? 痛さも辛さも感じないんか? これは…チアノーゼや。 酸素が来てない、いうことやんか。 息づかいはこんなに落ち着いてるのに、身体は死人になりかけてるいうことやんか。 「はやて、あなたは消火活動を」 「覚悟君は?」 「悪鬼を討つ!」 「そんな顔色で何言うてんねや!」 「問題ない! あなたも牙なき人の剣なら、おれなどに関わっておらず為すべきを為せ!」 わたしを腕から下ろして、覚悟君は、また。 …わかっとるて。 わたしを戦士として認めてくれてるからこその厳しい口ぶりや。 なのはちゃんやフェイトちゃん、うちの子らと同じに。 けどな、そういう問題とちゃうねん。 見てて、痛いねん、苦しいねん… もう、我慢できねえ。 そう思ったときにはすでにグラーフアイゼンが唸っていた。 脇腹からえぐるように打ち込み、巨大変態カメラ野郎は悶絶しながらぶっ飛んだ。 …なにやってんだ、さっきから。 他の無力な連中を手早く追っ払いながら見てれば、 はやての足を引っ張り放題じゃねーか、てめー。 誰のせいで変身できてねえと思ってんだよ。 なにをアゼンとしてやがる、横槍突っ込まれて不満かよ。 いつからここはタイマンのケンカ場になったんだよ。 んで、三秒くらいタップリと間を空けて、やっと聞いた口がこれ。 「ヴィータ、室内でその威力は危険!」 問答無用でひっぱたいた。 わけがわかんねえって顔で、あたしを見てやがる… ちょっとくらい、あたしの気にいらない態度をとるのも構わねえよ。 ゲームオンチなのも別にいい。 だけどてめえは今、一番ゆるせねえことを現在進行形でやらかしてんだ。 「すっこんでろよ、てめえ」 「…あれしきに、君の手をわずらわす必要なし」 「ふざけんな!」 瞳孔が一気に開くのが、自分でもわかった。 キレたらこうなる。 よくは知らない、気にもしない。 「零式のゼロは、生き残る気ゼロのゼロかよ!」 「…!!」 「やせ我慢でよ、ごまかしきれるとでも思ってんのかよ? 死人みてえな肌の色でよお…」 あたしの眼は絶対にごまかせねえ。 大丈夫、大丈夫と大ウソをつき続けて、 なにもかもダメにしかけたクソッタレを知っている。 飛び散る火の粉に、あの日の雪を思い出す。 零(こぼ)れる生命が目に見える。 てめえは、はやてに同じものを見せる気か。 「姿形など、どう変わろうと問題なし。 わが身は必勝の手段なれば」 心の中でいくら叫んでも、こいつは全然、気づかない。 零(ぜろ)、こいつのどのあたりが、誰かと同じ涙を流せるやつなんだ。 「父上は、五体微塵(みじん)と化そうとも現人鬼(あらひとおに)と戦い続けた。 肌の色ごときで膝を折っては、武人の恥、葉隠の名折れ!」 あたしにあっさり背を向けて、飛んでいったカメラ野郎の方に歩いていきやがる。 …この、救済不能(すくえね)え恩知らず! 「ましてや、あのような下郎に遅れをとったとあらば、 おれは散(はらら)には永遠に届かぬ…」 こいつ、今まで感情ぶちまけたことなんか一度もなかったのに。 むしろホントに人間なのかどーか疑っちまうくらいだったのに… ダメだ、こいつ! 話して止めてるヒマはねぇ! そのとき、そこに。 「なに、ぼんやりしてるですか、ヴィータちゃん!」 「リ、リィン?」 「言ってわからないおバカは、こうなのです!」 後ろからかっ飛んできたリィンが、あいつの頭に宙返り片手逆立ち… まさか、バカ、やめろ――― 典 我 一 体 ユニゾン・イン 「ばかな! なんということを!」 まじにうろたえたあいつの悲鳴が聞こえた。 あ…くが、ひがっ…ひはぁっ… 苦しい息をしてるのに苦しいこんなに息が荒いのに苦しい 見えない手に首を絞められてる苦しい痛い頭が割れる 死にたい今すぐ死にたい痛い苦しい殺して助けて… リィンは、痛覚を遮断することにしました。 覚悟くんと同じ苦痛に、リィンは耐えられませんでした。 「今すぐに出ていきなさい!」 魔法の素質ゼロで念話すら使えない覚悟くんは、 自分の口でしゃべってリィンに呼びかけるしかありません。 つまり同化したリィンを追い出す方法ナシってことです。 そんなことより。 『どうして、こんなになるまで黙ってたですか…』 放射線被曝(ひばく)による体内の赤血球死滅。 もしかしなくても、あの最初のカメラの仕業ですか? 全身が酸素欠乏のまま四分経過… すでに脳細胞の死滅が始まってるです。 今はリィンが全力で食い止めてますけど、そうでなければ今頃、覚悟くんは… 違うです。 今、立ってるのだってオカシイですよ。 もう、身体はほとんど死んでるですよ? どこも、かしこも! 「油断をした報いなり。 これはわが身の罰と知る!」 『死んじゃうですよっ!!』 「悪鬼討ち果たすには十二分なり! さあ、出ていくが良い! わが体内は危険!」 リィンは最初から、そのつもりで入ったですよ。 覚悟くんの強情さだって、なんとなくわかってたですよ。 みんなだって、とっくの昔に知っているですよ? 『だったら覚悟くんも選ぶです! リィンをひきずって一緒に死ぬか、またみんなで一緒にご飯を食べるか! どっちにしても、リィンはここをどきません!』 だから、伝えます。 リィンは 覚悟くんを 信じています マイスターはやてを 泣かせたりしないと 信じています シグナムを ヴィータちゃんを ザフィーラを シャマルを 絶対に哀しませたりしないと 信じています だって覚悟くんは 誰かを失う苦しみを 誰より知ってる戦士(ひと)だから! ――効いた。 暗雲の最中、まばゆき光を投げかけた言葉であった。 おれはまたも勘違いしていたのか? 一人で戦っていると? 己が未熟に目がくらみ、葉隠の名に拘泥し、ために皆を忘れていたのか? ともに戦わんとするはやての真心を、それを守らんとするヴィータの心意気を。 煩悩に囚われて何が零式か、片腹痛し! だからあのような格下に四分以上の生存を許すのだ! 「ならばわが身、すでに必生(ひっしょう)!!」 祝福の風、届いたり。 わが蒙(もう)、啓(ひら)けたり。 怪人、復活確認。 戦闘再準備! 「リィン、良いか?」 『はいですっ』 彼奴の正中線上に左腕を真っ直ぐ。 右肘は弓引きて仁王の如し。 零式防衛術、破邪の構えにてつかまつる。 今のおれは典我一体(てんがいったい)なしとげし、リィン覚悟! 思いはひとつ、悲哀残さじ! 「ぶもももも…痛ぇぇ~~」 「きさまに撮れるか? わが身がまといし真実を!」 「オトコなんざぁ撮ってもウレシくないぃ~ 再 ・ 熱 写 暴 威 」 またもはやてを狙ったか、おろかな。 これだけの余裕を与えられて手はずを整えぬ戦士ではない! はやてに向かい直進した熱線は、直前に形成されしベルカ魔法陣の防壁にて完膚無きまでに阻止。 拡散されて無力化した影にて、はやてが超鋼、シュヴェルト・クロイツ展開確認。 「大丈夫なんか? 覚悟君」 「リィンが守ってくれている。 あと二十分は問題なしとの事!」 「…ほなら、十分で決めるで」 「おい、天井やぶって逃げたぜあいつ。 外に戦場うつす気かよ、くそっ」 駆け寄り来たはやての後ろから、ヴィータが宙に指を指す。 そこには確かにやつの飛び立ちし大穴ありて、直射日光差し込んでおるなり。 外には民間人が大量に、混沌(パニック)と化すは確実…されど。 「問題なし、やつには束の間の余命も与えぬ! ただちに追撃!」 「待て!」 声とともに現れたるは、見知らぬ白髪褐色の男。 …否、このにおいは知っている。 頭と腰にある耳と尻尾も見ればその正体、明らかであろう。 「ザフィーラか!」 「重かったのだ、無駄にされては困るな」 その場に投げ出されしトランクケースもまた、間違えるはずなし。 「零(ぜろ)!!」 『ひどい血色だな、覚悟! 雑魚を相手に油断したか?』 「恥じるべきはわが不明なり」 『詳細不明だが、まあ良し。 急ぎ着装せよ!』 「着装? しかし…」 零(ぜろ)は準ロストロギア指定なれば、発動には許可が必要。 そして、その責の全ては保管者たるはやてに帰することに… 「遊園地敷地内にガジェットドローンが三方より突入を開始してきた」 その説明、引き継ぎしはザフィーラ。 「総数は四十を超える。 迎撃できるのは我らのみだが、 敵の隊伍分散されては身体がいくつあっても足りん」 「速攻が必要ってえワケやな」 「だが、はやて…」 「あんまり、見損なわんどいてな? 覚悟君」 はやての唐突なる、デコピン。 やや深刻におれをたしなめる際の仕草なり。 「わたしかて、零(ぜろ)と心通わせた戦士やねんで。 力を使うべきときは、わかってるつもりや」 ならば、戦士に敬礼! 「八神一等陸尉殿! 強化外骨格、零(ぜろ)、着装いたします!」 「うむ、許可や! 汝が正義と共にあらんことを!」 『はやての同意を確認! 覚悟、ただちに認証開始せよ! 後がつかえておるなり!』 「了解」 超鋼(はがね)の纏い手たるおれ。 準ロストロギアの管理者たるはやて。 そして、侵略戦争の犠牲者三千の英霊。 三者の同意があって初めて零(ぜろ)の封印解除は可能なり。 認証の聖句はおれが決めた。 あれ以外にありえぬ。 征くぞ、零(ぜろ)! 長生きだけを願うなら 人は獣と変わりなし ただひとすじの美しき道 駆け抜けるから人と言う 二つ無き身を惜しまずに 我が身は進む 仁のため たった三文字の不退転 それが心の花である! 「Attestation is completed. Lock release」(認証完了、ロック解除) 「瞬着!!」 トランクに正拳一打、光と共に飛び出したるは零(ぜろ)細胞。 わが神経網へと絡みつき、外骨格を一体化。 腕部、脚部、腹部、胸部…着装確認。 最後の部位は頭部なり。 内装部、着装…外装部、着装完了。 これにて正真正銘、一心同体。 正義マフラー、われらが証。 展開確認。 全部位、異常なし!! 覚 悟 完 了 強化外骨格 零(ぜろ) ミッドチルダに正義降臨 前へ 目次へ 次へ
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ウイングロードで突っ走った先にあるのは、狙撃型オートスフィア。 遠くからさんざ撃たれまくったけれど、 ティアの幻術が道を拓いて、やっとあたしの射程内。 半年に一度のBランク昇格試験、ここで落とせば、また半年後。 あたしだけじゃない、ティアの夢が、こんなところでつまづくのなら。 足をくじいたティアを放って、あたしだけがゴールするくらいなら。 そんな未来は、握った拳でぶち砕く。 あの日、あの時、あの人が、あたしにそうしてくれたように。 そして、もう二度と、守れないことのないように。 神 聖 破 撃 ディバイン・バスター 魔力球、形成! 振り抜く右のリボルバーナックルで殴打、衝撃波、発生! 敵の攻撃全部はね飛ばし、無理矢理に隙をこじ開ける。 分厚い天井をぶち抜いて生きる道を創ってくれた、あの人の魔法。 間髪入れずにウイングロード、展開! ローラーブーツ、最大加速! 作った道は、あたし自身で駆け上って、極めるんだ! 右の振り抜きざま、左の素拳に込められた力は、 踏み出した足と同時に、真正面の『未来』にめり込む。 「 因 果 (いんが)!」 あの日の空に 見つけた憧れ あたしは あたしの なりたいあたしに なる ! 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第九話『二人(前編)』 「因果だってよ、覚悟くん」 「否、あれはディバインバスターなり」 照れなくてもいいのに。 少し嬉しそうで、少し哀しそうな顔をしている覚悟くん。 やっぱり、一度は生命を助けた子だから、 わざわざ戦いの場に戻ってくるのを止めたい本音もやっぱりあって。 でも、あのとき、あの子を助けた魔法の名前を受け継いで、 誰かを助ける仕事を望んでくれた…伝わる思いも、うれしくて。 また映像に目を移したら、ティアナちゃんを背負ったスバルちゃんが、 制限時間ぎりぎり、全速力でゴールに突っ込んでくるところ。 合格は間違いなしだった。 満点はあげられないけど、見せてくれた奮戦と結果は、納得するには充分すぎる。 そんな、感激の目で見ていたから、あやうく気づかないところだったけど。 「危険だ」 「…まずいね」 ヘリから一緒に飛び降りた。 このままじゃ二人とも、ゴールの先にある瓦礫に正面衝突だから。 最後の最後でこんなミス…危険行為の減点は大きいけれど、 今はそんなこと、気にしている場合じゃない。 覚悟くんは覚悟くんらしく、正面から二人を受け止めきるつもりみたい。 だったらわたしはその後ろからアクティブガードで、さらにやさしく受け止める。 誰も痛くないように…そう、思っていたんだけど。 スバルちゃんのとった行動は、覚悟くんの予想も、わたしの予想も超えていたんだ。 わたし達が受け止める体勢をとるよりも前に、スバルちゃんは、ティアナちゃんをお姫様抱っこして。 …自分で、仰向けに転んだんだ。 「んんうううぅぅぅぅぅぅッ!」 歯をくいしばりながら、背中でアスファルトを滑ってゴールを通過。 ティアナを上に載せたまま、平手を地面についてブレーキ。 わたしと覚悟くんよりはるかに前の地点で、速度を完璧に殺して止まった。 正直、言葉もなかったよ。 だって… 「…ゴール、だよ、ティア」 「っの馬鹿ぁ!」 バリアジャケットの上着は摩耗しきって消滅して、 肩とか背中とか、こすった後が一直線に赤く残ってる…地面に。 痛い、痛いよ。 これは痛い、見てるだけで。 「なんてこと、なんてことしてんのよ! あんた…あんた、正気ぃ?」 泣きそうな顔で胸ぐらを掴み上げてるティアナちゃんに、 スバルちゃんは少し笑って答えてた。 血みどろの背中に、全然気づいてないみたいに。 「その…ティアが、足、怪我してるから。 これで、公平かなって…」 「馬鹿言ってんじゃないわよ、なにが公平よぉ」 「それより、間に合ったよ、制限時間内に、ゴールできたみたい」 「んなの、どうでもいいわよっ、いくら、あんたが…」 覚悟くんが近づく。 わたしも近づく。 二人とも、それに気がついて、こっちを見た。 試験の結果は、今は二の次。 言ってあげなくちゃいけないことができたけど、 それは覚悟くんがやってくれそうだったんで、わたしは止まって待っている。 少しぼんやりした顔のスバルちゃんの正面に立つと、覚悟くんは。 「馬鹿者! 己が身を大事にせよ!」 開口一番で怒鳴りつけてくれた。 思わずきつく目を閉じるスバルちゃんに、かまわず続けていく。 「父と母より受け継ぎし玉身(からだ)。 昇格試験ごときで、粗末に扱ってはならぬ」 「…ごとき、じゃ、ないです」 だけど、ここでまた。 「ティアの夢が、かかっているんです。 ここでダメにしちゃったら、また半年先になるから。 半年も遅れちゃうから、だから…」 スバルちゃんは、明確に反論してきたんだ。 この試験には、これだけのケガをわざわざしてまで受かる意味があるって。 それは友達の夢を守ることなんだ、って。 そう聞かされた覚悟くんは、少し、むずかしい顔をしてから。 「その意気やよし」 「…わっ?」 「よくぞ、これほどになってまで守り抜いた」 脱いだ機動六課のジャケットを、スバルちゃんの背に放り投げるようにかけた。 当然だけど、覆い隠された傷口の部分から、すぐに血で汚れていく。 「だが、できるだけ自ら傷を負うことは避けよ。 おまえの友も喜ばぬ」 目配せされたティアナちゃんも、一瞬遅れて弱々しくうなずいた。 覚悟くんは満足するようにここから立ち去ろうとして、 その背中をまた呼び止められる。 「あ、あのっ、これ、上着」 「医務室で処置を受けて後、返しに来るがいい」 「でも、血で…」 「おれもあの時、きみの服をおれの血で汚したはず。 これにて公平!」 「…………」 あとは覚悟くん、振り返りもしなかった。 これからは、守るべき誰かじゃない。 一緒に戦っていく後輩になる。 覚悟くんに言わせてみれば、スバルちゃんは生命の恩人で。 スバルちゃんがいなければ、火事の中、一人で力尽きていて。 そんな子を戦わせるのはやっぱり嫌って本音は、きっと、どうにもならない。 でも、そんな覚悟くんだから、わたしはすっごく期待してる。 絶対に死なせたくなくて、その上、スバルちゃんの戦う意志が揺るがないなら。 覚悟くんは、スバルちゃんにティアナちゃん、それとまだ来ていない二人にも、 育てるために全身全霊を尽くしてくれる。 これは確信かな。 その後、試験が終わった二人に、すぐ機動六課の話を持ちかけた。 二人が出会った、あの怪人の背後関係を今は追っているって説明した。 だから多分、他よりも、ずっと危険で血なまぐさい仕事を請け負うことになるよ、って。 断りたければ、断ってもいい。 二人にはその権利があるから、って。 …答えはね、ふたつ返事だったよ。 これからよろしくね。 スバル、ティア。 わたしも、二人を絶対、死なせたりしないから。 スバル・ナカジマ、およびティアナ・ランスター。 この二名は良し。 だが、もう二名はどうか? エリオ・モンディアル、およびキャロ・ル・ルシエ。 魔導の素質すぐれたるフェイトの養子二人。 スバルとティアナが今回の試験にて勝ち取った陸士Bランクを、 エリオなる少年、すでに保有しているも、それだけでは信用できぬ。 精神(こころ)伴わぬ戦闘力は危うき候。 たとえるならば、嵐に揺らるるいかだの上、樽に詰まったニトログリセリンに同じ。 保有する大破壊力、正しく扱えねば自らを滅ぼす。 これ父、朧(おぼろ)の教えなり。 ゆえにおれは問わねばならぬ。 両名の、戦士としての了見を。 別にフェイトを信じぬわけではないが、こればかりは拳を突き合わせねばわかるまい。 両名を機動六課官舎に呼びつけて早々、おれは模擬戦を申し込んだ。 むろん、フェイトが立ち会う。 養子二人がこれより志望するは、殺意うずまく戦場なれば、 むざむざ死にに行かせるを承知するわけもなし。 ただ、これだけを言って、この模擬戦を許したのだ。 「私は信じてるよ。 二人の持ってる、ゆずれないもの」 「その言葉、覚えたぞ」 模擬戦場には、基礎的に廃墟を設定。 高速道路跡上にて、おれと両名は向かい合っている。 紅の少年と、桃色の少女。 まだ年端もいかぬ子供… とはいえ、おれとて十歳にして零式鉄球をこの身に埋め込んでいるのだ。 そして、さらには。 あの高町なのはも、フェイト・テスタロッサ・ハラウオンも… はやてまで、十歳に届かずして実戦に身を投じているという。 すなわち、身体未成熟であろうが、面影に幼さ残っていようが、あそこにあるは未知の敵。 いささかなりとも、あなどる気は無し! 「正調零式防衛術(せいちょう ぜろしきぼうえいじゅつ)、葉隠覚悟…参る!」 「…エリオ・モンディアルと、ストラーダ!」 「う、あ、あの…」 紅の少年、エリオは槍を掲げて返礼したが、 少女は気後れしきって何も言わぬ。 早くも底が知れたか? そのようなわけはあるまい。 「名乗れ! 戦う前から気迫に呑まれてどうする!」 一喝。 これでひるんでしまうならば、戦場に立つ資格なし。 だがそこで、傍らにいたエリオ、少女の背を軽く叩き、 振り向く少女に目を合わせ…うなずく。 そして再び、槍をこちらに構え、突き出す。 宣戦布告、確かに見たり。 少女もまた、気合いを入れ直し、今度こそ名乗った。 「召喚師、キャロ・ル・ルシエ! フリードリヒと、ケリュケイオン!」 エリオから多少の力をもらったか。 それも良し。 少女、キャロの背に隠れていた竜、フリードリヒも姿を現わし、開幕準備完了。 「…来い!」 戦士の礼にて、相手つかまつる! 前へ 目次へ 次へ
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思い起こせば、あの火事がきっかけだったんやなあ。 機動六課のはじまり。 うちが望んだ新部隊の。 初動の遅さが犠牲者を増やす。 ロストロギアならなおさらやんか。 だからこその精鋭部隊や。 少しでも早く、一人でも多く。 あれは、そんな気持ちの生んだ焦りだったんだと思う。 「誰にも、人をもの呼ばわりする権利はない」 覚悟君が目覚める前の、うちと、零(ぜろ)の出会いや。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第二話 『盟約宣誓』 我ら、零(ぜろ)の意志なり。 零(ぜろ)に宿りし三千の怨霊なり。 誰と問われたとて、三千の怨霊たる我ら以外にあらず。 国籍も、、信念も、愛するものも異なっていた我らを結びつけるものは ひとえに、侵略戦争への怨嗟なり! 人の尊厳をふみにじる悪鬼どもへの限りなき憤怒なり! ゆえに我らはひとつ。 零(ぜろ)となりて外道を討つ。 我らと同じ血涙をためらいなく流した、我らが戦士、葉隠覚悟と共に。 憎しみの海たゆたう我らを光と変えたあの覚悟が、背中まかすべき相手を見誤るとは思わぬ。 邪(よこしま)なる企みがため利用されることなど、ありえぬ。 だが我ら、ただの鎧なり! 昏睡に陥りし覚悟を前に、首を切り離されていては何もできぬ。 そして、覚悟に必要なものは刹那を争う外科手術! もとより我らの手には負えぬ! ゆえに覚悟の着装せし首以外の我らは分離、治療行為を異邦人に託さざるを得ず。 同時に我ら、彼らに拾われ、現在カプセル内にて薬品付けなり。 当然であろう、零(ぜろ)は兵器! 誰が見ても明らかなり! 力求める輩に我らを為す技術、いかほどの魅力あろうか! 強化外骨格が瞬殺無音、誰にも渡すわけにはいかぬ。 だが我ら、ただの鎧なり! 現在可能なのはただひとつ。 ふさわしきもの以外の着装、これただちに我らが生贄(にえ)。 邪悪な認識をもって我らに接するものなど、とり殺してくれよう。 「…お、重かった」 「そのまんま人の首の重さだな、こりゃ」 「持ったことあるのかよ」 「ないけど」 ズン!…やって。 ヘルメットが重そうな音を立ててテーブルをきしませてる。 額の星と『七生』の文字が黒光りしてるのも、重さに拍車をかけとるな。 ここまで持ってきてくれたデバイス管理チームの二人には感謝やで。 火事の現場で拾ってきたフェイトちゃんも、片腕に女の子抱えて、 もう片手でこれの重さに耐えるのは閉口モノだったみたいやし。 「おおきに。 それじゃあ、引き続きお願いな」 「了解です」 敬礼して戻っていく二人を見送って、室内に目配せ。 ここにいるのは、なのはちゃんとフェイトちゃん。 それと、事情を話して急きょ来てもらったクロノ君。 「これが…あの少年の身につけていたデバイスの、頭か?」 「みたいやね。 せやろ? なのはちゃん」 「うん、頭だけかぶってなかったけど…これならそろいのデザインだよ。 でもフェイトちゃん、火事の中でよく見つけたね」 「目がね…ほら、ここだけど、目が光ってたんだ。 それに、なんだか…血の涙が出てて、可哀想で」 「フェイトちゃんらしーわぁ」 ヘルメットの目の部分を指さして、うつむき加減に話すフェイトちゃん。 デバイスにだって、うれしいこと、イヤなことはあるもんなあ。 この子はそういうのに人一倍敏感やから、本当に助けたい思うたんやね。 おかげで助かったんや、感謝せなあかんで? まだ名も知らないデバイスやけど、そないなこと言ってやりとうなったわ。 「…で、問題は、これがどういうシロモノかということなんだが」 せっかちにクロノくんが切り出す。 忙しいところ無理言って来てもろたんやから、当たり前やけど。 「あの少年、ミッドチルダに戸籍を持っていない。 該当データなしだ。 レリックが原因で起こった火災の中にいて、おまけに未知のデバイス。 穏やかじゃなさすぎると思わないか?」 「関連は、あると思うた方が自然やね。 時空遭難者なんかな…」 「葉隠覚悟、っていう名前は、わたし達の世界の、日本の名前だよね」 「ともかく、僕に一番最初に話を持ってきてくれたことはいい判断だ、できる限りのことはする」 覚悟君のデバイスがロストロギアみたいなものかもしれないってことで、 クロノ君にも「偶然ここに居合わせて」もらったのが助かったわ。 現に、正体不明人物が火事の現場に現れたことの連絡が伝わって、 その対策として居合わせたクロノ君にまかせるってことが決まったのは…翌日なんやで? 動きがのろすぎるんや! もしこのせいでまた空港が火事になったりしたら、どうするつもりやねん。 だから今は、クロノ君の声のかかったチームで、デバイスの解析作業を進めてる。 さっき、サンプルの頭と一緒に、解析の途中経過も持ってきてもらった。 「…これは、一種の人造生物だな。 人間の身体にからみついて外骨格そのものになるのか」 「そういえば覚悟君、言ってたっけ。 強化外骨格、って」 「だが、デバイスでいうところの制御中枢にあたる部位が、これには存在しないじゃないか。 聞けば、手術ができず難儀しているところに、あの鎧は勝手に脱げていったらしいが」 「違うよ」 フェイトちゃんが、また、あのヘルメットを腕に抱えた。 「デバイスとか、制御中枢とか、そんなんじゃなくて… それでも、この子には意志があるよ。 よく、わからないけど」 「理屈じゃない、か…それも一理ありそうなのがまったく困る」 「まあ、あとは調査の結果待ちやね」 わからないことはこれ以上話せへんし。 今回決めるべきことは、ひとつや。 「じゃあ、本題に入るけど…結論から言うで」 「大体、検討はつく気がするが、言ってみてくれ」 「うち、これからもっと偉くなってな、新部隊を創設したいと思うねん。 今の管理局は初動が遅すぎるわ。 ロストロギア関係の事件が起きれば、犠牲者が増えすぎる。 エキスパートを集めた即応部隊が必要なんや」 「おおむね賛成だ、生半な道じゃないが…それで?」 この話と、なんの関係があるのか? クロノ君はそう言っとるんやけど、大アリや。 「葉隠覚悟君が、ぜひとも欲しいんよ」 「なっ…」 度肝を抜かれた顔せんでもええやん。 そんくらいのこと、予測しといてほしかったわあ。 「まだ身元すらはっきりしていないんだぞ?」 「はっきりしてからでも遅くはあらへん。 どうせ早くて三年かかるわ、この野望!」 「それにだ、本人の意志も確認せずにそれはないだろう、常識的に…」 「わかっとるて、全部、覚悟君次第やて。 話に聞くだけの力を持ってるなら、それだけの意味がどこかにあると思う。 そのためにも、覚悟君の自由、誰にも奪わせたらあかんねん」 「…それを、ぼくにどうにかしろというんだな」 「悪いこともしてないのに目を覚ましたらデバイスが没収されてるなんて、嫌やんか。 せやから、せめて目を覚ますまでの間は現状を維持して欲しいんや」 「やれやれだ…これはひとつ、貸しだぞ」 「そのうちな、無理言ってもええで」 まだ直接話したことすらない子の未来を好き勝手するつもりは毛頭あらへん。 せやけど、聞けば聞くほど惚れるやんか。 空港火災の中、死にそうな身体を引きずって女の子を助け、残った子を助けにまた舞い戻ろうとする。 シャマルが言うには、生きてる方がおかしいダメージを受けてるちう話やった。 うち、そんな子となら一緒に働きたいねん。 なのはちゃんや、フェイトちゃんと一緒に。 「戦力として、ものにしたいところやな…覚悟君も、この子も」 なんとなく、ヘルメットをつかんでみたそのときやった。 ヘルメットの顔が開いて、中の肉が触手になって飛び出してきて、 うちの頭に、顔にべたべたひっついて…何が起きたのかわからへんかった。 だけど、そのとき一緒に聞こえてきた声だけは、はっきりわかった。 『零(ぜろ)にふさわしき戦士かを問う!』 八神はやて、零(ぜろ)の頭部、着装! 戦力として、「もの」にしたいところやな。 「もの」にしたいところやな…「もの」にしたい…「もの」に… 「もの」、「もの」、「もの」、「もの」、 「もの」! 「もの」! 「もの」! 「もの」! 「覚悟はきさまのものにあらず! 誰にも人をもの呼ばわりする権利はない!」 我らと覚悟の力を欲するという少女は、我らが前で最大の禁句を口にした。 「戦力」として「もの」にするだと? よかろう、ならば覚悟を問うてやる。 強化外骨格の力を得ようとするならば当然の試練なり! 我らが意識界に取り込まれし少女は生まれたままの姿。 ここでは何ごとも隠し立てはできぬなり。 少女は尋ねる。 早くも我らに気づいたか。 我らが無数の髑髏(しゃれこうべ)に。 「これ…違う、あなたたちは?」 「我ら、零(ぜろ)に宿りし三千の怨霊なり」 「なら、あなたたちが、あの子…」 「我らが力、欲しいと言ったな! 精鋭を集めた部隊に欲しいと!」 このくだり、忘れたくとも忘れるまいぞ。 鬼畜、葉隠四郎も同じことを言っていた! 零式防衛術は、そこより生まれ出でたのだ。 無数の屍を踏み台として! この少女、八神はやてとやらの正義、確かめねばならぬ。 そこに邪悪な認識欠片(かけら)もあらば、ふさわしからざるものにふさわしき処遇を与えん。 覚悟未だ目覚めず、我らの五体不満足なる現状、こうするより他、理想的なる道は無し! 「ならば見よ、我らが憎しみを!」 零(ぜろ)が生まれたのは、第二次世界大戦下。 まだ日本が帝国を名乗っていた時代。 本土決戦に備えるべく葉隠瞬殺無音部隊にて生み出されしは 人体の潜在能力を極限まで引き出し一触必殺を可能とする零式防衛術! 体内にうずめることで五体を装甲化、弾丸をはじき返す零式鉄球! 生体改造により人間そのものの戦闘能力を強化された、戦術鬼! そして、武器を内蔵した耐熱防弾防毒鎧、着装すれば人間を戦略兵器と化し単身にて一国をも落とす、強化外骨格。 これらの完成のため、無数の人体実験が必要とされ…提供されしは敵国人捕虜! 彼らは性別、人格、年齢、なにひとつ考慮されず番号として扱われ、無惨な死を遂げていった。 頭や四肢を破壊されては、ごみのように捨てられていった。 彼らの血肉より出でしが、強化外骨格試作壱号、零(ぜろ)。 零(ぜろ)の涙は彼らの血涙。 憎むべきは侵略戦争、憎むべきは人の皮をかぶりし鬼畜。 恨みと痛み、絶えることなし… 八神はやては、歴史を見た。 「うあああああああああああああああああああ!!」 絶叫。 我らが我らたる所以を見たか。 痛みから来るものか、恐怖から来るものか。 八神はやてはその場から遁走を開始した。 「やはり、ふさわしき戦士にあらず!」 ならば殺すべし。 頭蓋を圧壊せしめて殺害するなり。 そしてこの意識界、我らから逃れうると思ったか! だがしかし! 目の前に立ち塞がりしは、剣十字! 「きさま…ここに侵入してくるとは、何者か!」 その中より浮かび上がるは、白き女。 今にも消えゆきそうな幽鬼なり。 憎しみによりて現界せし我らと比べ、その顕在化、あまりに脆弱! だがその女の広げた両腕より先に、我ら、一歩も進めざるなり! 無言の気迫、我らと同じく強化外骨格に宿る魂に匹敵。 何者か。 こやつ、何者か? 「そこをどけ!」 この女、威圧ごときにたじろぐわけなし。 かえってその足、我らの方に進め来たるなり! そして、こともあろうに、この女… 我らの認識を逆に侵略開始せり! 零(ぜろ)細胞の主導権、奪取さる! 八神はやての頭部より着装解除、地に落下。 「おのれ…」 だが刹那、我らは見た。 時を超え刻まれし哀しみの記憶! それは侵略の歴史であり愛憎の歴史! 悪しき認識によりて本質をねじ曲げられ、 災厄として現界させられる終わり無き苦痛! 心ならずの滅尽滅相、愛するものを自ら蹂躙する宿命! 幾度死せども強制転生の無間地獄! 己を滅ぼすことすら不可能なり! かの者は夜天の書、のちの呼び名を闇の書。 我らとなんら変わらぬ怨嗟の塊! 「そのような女が何故?」 我ながら愚問なり。 その終焉の歴史にて、我らが無駄口閉ざされたり。 永劫の痛み、すべて受け入れた上で現実への回帰を選択、 闇の書をもろとも光の中へ導いた少女こそ、あの八神はやて! 「きさまの、名は!」 祝福の風、リィンフォース! 幾星霜の彼方にめぐり会えし真なる主(あるじ)を地獄に引きずらぬため 自らこの世を去った魂の、ほんの残滓の一欠片(ひとかけら)。 奴にとっての八神はやては、我らにとっての覚悟と同じ! 心つないだ友にして、身命賭して守るべき主! 「主を殺す前に現実を見よ」 「なに!」 「すぐに必要ないとわかる」 その言葉を最後に、リィンフォースの最後の欠片、消滅せり。 …否、主を守護せんがため、涅槃より舞い戻っていたのか? 今となっては、我らにもわからぬ。 ともかく、言われた通りに現実の様子を見るより他にあるまい! うちは、なんて、ひどいことを。 この子に、この子らに、なんて、ひどいことを… 頭から外れた零(ぜろ)が、うちの顔をぼんやり見ていた。 「零(ぜろ)ぉぉ―――――ッ!!」 抱きしめて駆け出す。 ひどすぎや、こんなんひどすぎやで、こないなこと、こないな… ほとんど、なんにも考えられんかった。 ただ零(ぜろ)が痛くて、苦しくて、 そんなこと、うち今まで、なんにも考えとらんで。 『もの扱い』しとった。 『もの』以外の何だとも思うとらんかった。 それがくやしくて、みじめで…こんな、ひどすぎる! 「元に戻したる、今すぐ元に戻したる!」 気がつけば解析室に殴り込みかけとった。 ガラスケース叩き割って、零(ぜろ)の身体を引きずり出しとった。 でも、うちの手には重すぎて、全然動かせのうて… しょうがないから、無理矢理ケースの中に入り込んで、 やっと零(ぜろ)の頭を戻してあげられた。 「ごめんな…ごめんな」 生体保存用の溶液に浸された零(ぜろ)の身体は冷たかった。 うちは今まで…この子の首を、はねていたんや! 首はねたまま引っ張り回して、さらし首にしとったんや! その隣でうれしそうに、この子の力が欲しいだとか! 「痛かったなぁ、辛かったなぁ、苦しかったなぁ… 気づいてあげられなくて、ごめんなぁ…ごめんやで。 うち、最低や…最低やんかぁぁぁ…」 涙が止まらんかった。 痛くて、辛くて、苦しくて。 全然気づかなかった自分が、あまりにも非道すぎて。 「いきなりどうしたんだ、デバイスに操られたか?」 「はやてちゃん…ガラスで、手が、頭が、血が…!」 「素手でガラスなんか割るから、無理に中に入るから!」 うしろから来るなのはちゃん達。 せやけど、そんなのどうでもええんや。 「この子らの方が、ず――っと痛いねん、辛いねん! こんな痛みじゃ…全然、足らへん。 こんな痛みじゃ…」 この子らの痛みをわかるためには、二度や三度死ななあかんねん。 うちには、そんなこと、できひん。 生命惜しいねん、死ぬの怖いねん。 なんてさもしいんや、自分。 なんて、自分勝手なんや。 この子のために泣きわめくことしかできないんか… 『もうよい! もうよいのだ、八神はやて!』 「…っ?」 『おまえは我らのかわりに泣いてくれている。 我らには流せぬ清浄なる涙にて、我らが心を洗ってくれている。 ゆえに我らはおまえを許そう。 おまえも我らを許してくれ!』 「零(ぜろ)…」 『それに、我らは知った! おまえの惜しむ生命は、決して我が身可愛さから来るものではない! 牙持たぬ衆生の嘆き、背負うているのがその身であろう! 何を恥じるか、胸を張れ!』 腕の中から零(ぜろ)が、語りかけてきてくれた。 うちを許すって、言ってくれてる。 「でも、うち、みんなに、あんなひどいこと…」 『ならばひとつだけ誓ってもらおう! 魂の盟約なり』 「誓い…うち、誓うわ、それで許されるなら、なんでも!」 『二度と人をもの呼ばわりしてくれるなよ! 我らが友、八神はやてよ! …さあ、泣き止むがよい。 我らが「管制人格」は男なり! 女を責めて泣かせたとあっては、覚悟に合わす顔がないのだ!』 「…ごめんな、ありがとな」 『良い! それよりも刻め、誓いの言葉をその胸に!』 「うん」 ケースの中から這い出して、立ち上がった。 それから、零(ぜろ)と向き合った。 リィンフォースとそうしたように。 『 「 誰 に も 人 を も の 呼 ば わ り す る 権 利 は な い ! ! 」 』 盟 約 宣 誓 疾風(はやて)と零(ぜろ) ここに邂逅す 前へ 目次へ 次へ
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「これは…ダメだよ」 高町なのはに提出した新兵訓練案、この一言にて却下されたり。 上官なれば否やも無しだが、己があやまち正すも当方の任務。 ために聞くは、問題点と、その程度。 「短期的に効果は上がるかも知れないよ? だけど、それだけ。これじゃ強くなるより、みんなをすり潰す方が先になっちゃう」 しかし、われらは『対超鋼』。機動六課が発足した今、いつ出撃命令が下るかわからぬ。 短期間で練り上げねば、皆を死にに行かせることになるではないか… 「覚悟くん」 「…はっ」 「身長130cmの男の子に、今すぐ180cmになりたいって相談されたらどうする? 覚悟くんなら、なんて言ってあげるのかな?」 「…………」 返す言葉、なし。 不退転の心構えをもってしても、どうにもならぬことがある! 可能な助言といえば、月並み千万な言葉しか並ばぬ。 だが、その180cm。今すぐ必要ならばどうするか。 「そのときのために、わたし達がいるんだよ。 あの子達の後ろで支えてあげるの」 「だがそれでは、他を頼った戦いが身に付いて…」 「戦えないうちはそれでいいと思うな。 まさかいきなり改造人間と戦わせるつもりは覚悟くんだってないよね?」 「うむ…だが、想定はすべきだ」 「そこが対超鋼戦術顧問、葉隠覚悟の腕の見せ所だよ。 他の部分は、教導官、高町なのはを信じてほしいな」 なるほど。勘違いをしていたか。 改造人間との遭遇時、新人四名が増援到着までこれをいかにしのぎ生存するかの手段を確立し、 これのための訓練、演習計画を提案し実行するのが当面おれに求められた役割というわけだ。 今の今まで、おれは新人四名にて生物兵器をいかに倒すかをばかり考えていた。 そのためには現行の訓練時間ではあまりにも足りぬから、時間外の特別訓練案をこの高町なのはの元に持ち込んだ次第であったが。 「それにね…この訓練案。時間外じゃなくても、みんな、すぐにまいっちゃうよ」 「かの生物兵器を倒すには最低限、これだけ出来ねばならぬ」 「これが最低限だとしても、みんなにはまだまだ遠い一歩だよ。 必要なのは強くなりたい気持ちと、地に足がついた自信。 わたし達があせったら、みんなもきっと無理をして…自分の立ってる場所を見失っちゃうから」 …だが、死狂いでなければ届かぬ場所もある。 現人鬼、散(はらら)。 きさまがこの世界にいるというのならば、おれは… 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第十二話『焦り』 「どうした、打ってこい」 「はぁ、はぁ…」 息が荒いのは酸素が足りないからじゃない。 どちらかというとこれは、緊張。 四度目の突入角が、決まらない。 「臆したか、スバル!」 「ってぇぇぇりゃああああああ」 実戦じゃ、敵は待ってくれない。これ以上ぐずぐずできないんだ。 ウイングロードを展開。仰角およそ十五度の頭上から、あたしは突っ込む。 そして。 「積極」 葉隠陸曹の鉄拳が、あたしのお腹のやや上あたりをとらえたんだと思う。 まず衝撃。吹っ飛ばされて地面に墜落。 それから、耐えがたい吐き気と痛みが襲いかかってきた。 「うげぇぇっ…げほっ、ぐぅぅ」 「焦りのままに仕掛けるな、馬鹿者! シューティングアーツは一撃必殺にして一撃離脱。 道が通らぬままに打つは自殺だぞ」 口まで戻ってきたのを呑み下しながら、立つ。 …さすが、覚悟さんだと思う。 今は、攻撃せずに追いかけてくる覚悟さんを迎え撃つ形で、 後ろへ後ろへと引きながら、『道が通る』瞬間を見計らって打ち込む訓練の最中。 目標は、二十分以内に十発。 もう十五分経ってるのに、まだ一発も決められていないから、どうしても気が急いてくる。 この人相手だと、普段、通っているように見える道でも、雰囲気的に打ち込みにいけない場面がすごく多い。 というか多分、99%はそれなんじゃないかなと思う。 そんなだから、ごくごくたまに見える道もなかなか信じ切れなくて、 気がついたらあの人の回りをぐるぐる回ってるだけになってしまっている。 「受け身はしっかり取れたようだが防御魔法が甘い。 これが実戦であれば悶えているうちに止(とど)められよう」 「は、はいっ…」 「では来い! 十発打ち込めぬのであれば、十殺に匹敵する一撃を以てせよ」 「はいっ!」 ローラーブーツ、再加速。 旋回しながら間合いを開き、向かいの広い道路へと出る。 ここだったら、今までよりはいくらか道は通りやすくなる。 反撃する側の幅も増えるから、プラスマイナスで言えば微妙なところだけど… 覚悟さんは、乗ってきてくれた。 こっちに向かって駆け足で、あたしは頭上…見えた、道! ウイングロード、展開…いや、早い。早すぎた。 でも今更取り消せない。このまま突っ込むしかない。 だったら迷って打ち込んだりしない。決めたら、打ち込め… 「積極」 今度は左胸、少し下あたりに拳がめり込んだ。 ああ、実戦なら間違いなく即死だな。 痛みを感じるよりも前に、あたしはそう思った。 「ここまで」 「…………」 寝転んで青空を見上げていたところで、二十分、経ってしまったらしい。 まずはすぐに立ち上がる。こんな情けない格好、ずっと見せていたくもないし。 …にしても。 「一発も、入らなかった…」 これじゃあ、訓練以前の問題。 一発も入らなかったという結果だけの話じゃない。 打ち込みに行こうにも身体が動いてくれない所が多すぎた。 戦わずして負けたみたいなもので、これじゃあ、あんまりにも不甲斐なかったけど。 「おまえの『攻め』の気は伝わってきていた。 そう悪いものでもないと思う」 覚悟さんにそう言ってもらえると、散々だった今の訓練も、少しは誇らしく思えて。 だから、次はもっとうまくやる。 「良き師に学んだようだな」 「…はいっ、おかあさんと、ギン姉に」 あなたの背中を見たあの日から。 強くなりたいって願ったあの日から。 あたしはずっと、求めてきたから。 「でも、あたしの強さは、ぜんぜん足りない」 求める強さには届いていない。 もう二度と、あの子みたいな死を見たくなくって、 だからあたしはここにいる。 「鍛えてください。誰にも負けなくなるように」 「うむ…では征くぞ、今度はこちらの打つ番だ」 「はいっ」 「…で、今日も吐いたのね」 「うん、お腹だけ守ってるわけにもいかないし」 見てるだけで胸焼けがしそうな量を胃袋にかき込んでいくのは、 いつもそんな風に、いちいち中身を絞り出してくるからなんだろうか。 特盛り二人分のスパゲティをみるみるうちに減らしていくスバルを見ながら、 しょうもないことを私は考えていた。 「わかってはいるけど、よくやるわよ。葉隠陸曹」 「痛くなくば覚えぬ、って。あたし、間違ってないと思うから」 私やエリオ、キャロも身をもって経験しているからわかるけれど、 陸曹の訓練は『痛み』という一点で過酷さをきわめる。 シューティングアーツ…拳闘を主体とするこの子は、それをほぼ毎日やっているんだ。 今は制服を着込んでいるからわからないけど、 この子の服の下は、絆創膏と湿布だらけ。 一緒にシャワーを浴びに行くたびに、新しい青アザをこさえているのを見つけてしまう。 毎日毎日、生傷の絶えない子だ。 陸士訓練校で知り合ってから全然変わってない。 ドジで不器用なくせに、危険なことは一番最初に引き受けようとする。 一番前の、一番危険な位置に、進んで身体を張りに行く。 それをフォローする私の身にも、ちょっとはなってほしいけど、 だけど、私も負けていられなくて。 この子があの人の背中を目指してきたように、私にだって、ゆずれないものがある。 「ティアもよく食べるね」 「やかましいのよ、そういうこと言わないの」 「会った頃は、もっと食が細かったから」 「しっかり食べなきゃ務まらないでしょ、それだけよっ」 肉体と魔法をフルに行使するこの仕事だ。 身体をしっかり作っておかないと、続けられっこない。 それだけ…本当に、それだけ。 たくさん食べるようになったのだって、当然の流れで。 だって、そうでしょ? なんでこの子につられてたくさん食べなきゃいけないのよ。 むしろ私は指導する側。 何かにつけて限度を知らないこの子に、いつだってストップをかけてきた。 なんで私がこんなことをしてるんだろうって思ったことも一度や二度じゃない。 そんな私の気も知らないで、憧れの人を前に舞い上がって…いい気なものよ、ホント。 ふと、まわりを見回し、隣のテーブルの様子を目に留める。 あの二人…エリオとキャロが、仲良くご飯を食べていた。 詳しい事情は知らないけれど、キャロはやたらとエリオになついている。 エリオの方も気後れはしてるけど、まんざらじゃないみたいな様子で。 今だって、落ち込んでるキャロに頑張って話をふったり、元気づけようとしているみたい。 持ちつ持たれつはいいんだけど、私なんかの目から見たら、そうやって甘やかすのがいけないと感じてしまう。 そんな風に他人に頼った心を根付かせるから、戦闘訓練でも気後れするんじゃないのか。 …そこまで考えて、少し、むなしくなる。 だって、それを言ったら、私とスバルだって多分、似たようなものなんだから。 そろそろ考えなくちゃいけないと思う。 今は機動六課にいたって、みんないつまでも同じ道を歩くわけじゃない。 夢というのは結局、自分自身でしか面倒を見られないものだから… 「? どうしたの、ティア」 「どうもしないわよ」 「あの二人、仲、いいよね」 「…そうね。訓練もあの調子で順調ならいいんだけど」 「へ?」 目をまんまるにするスバル。 幸いにしてこの子にはまったく気づかれていないようだが、 我ながら大人げないにもほどがある発言だった。 …自己嫌悪、もとい、反省。 「明日はシグナム副隊長との模擬戦でしょ? 食べ終わったら作戦、詰めるから」 「ああ、それで」 別に、それで、でも何でもないのよ、スバル。 あんたはお人好しすぎて、たまにムカつくのよ。 ともかく、今の私に必要なのは、上司の誰かに「出来る奴だ」と認められること。 でなければ、実戦の一角にすら出してもらえないかもしれないのだ。 そして今の私達は四人で一人のようなもの。 全員で認められなければ意味がない。 私は、立ち止まりたくない。 今のポジションにあぐらをかいて、油を売ってるヒマなんか、ない。 多分、それはみんなも同じはずだ。 私達は、戦うためにここにいるんだから。 早く強くなって、早く誰かを助けに行って… 「作戦会議だったら、オブザーバーも役に立つと思うな」 そこにいきなり声をかけてきたのは、私の直属の上司にあたる人。 私を見込んで、機動六課に引き入れた人。 「た、高町一尉?」 「なのはさん、でいいってば」 スバルにとってはこの人も、自分の変化のきっかけで。 空港火災から救い出してくれた大威力が心の底に焼きついているから、 正面突破の砲撃魔法に同じ名前を借り受けて。 じゃあ、私にとっての、この人は? 「わたしも混ぜてもらっていいかな、ティア」 「…はい」 「元気ないなぁ。気合い、入れていこ?」 「はいっ」 機動六課、屋内訓練場。 第九十七管理外世界、日本国にある剣術道場を模して作られたこの場所は、 葉隠覚悟が好んで座禅を行う場所だと知っていた。 というより、おそらくはこの男の存在が無ければ、このような施設は作られなかっただろうと思う。 私、シグナムのみならず、大小様々の影響をこの男から及ぼされていることは確かだ。 そのようなこと、改めて感じるまでもないことだが。 「シグナム二尉」 案の定、私が道場に足を踏み入れると同時に敬礼を受けた。 常に感覚が研ぎ澄まされているのもあるだろうが、互いの足音を覚えているのだから当然か。 戦士が半年、一緒に暮らせば、そうなる。 「いい、楽にしていろ」 この言葉は合図だった。 楽にしろと言わない限り、部下で居続ける。 彼の最小限のけじめであり、ある意味で最大限の譲歩だ。 ほとんど誰もが九割九分、出会い頭にこう言うのだから、 もしかすれば彼も辟易しているかもしれないが、構うことはない。 「なのはから、聞いた。おまえが焦っているとな」 「新兵訓練案か。無理を心得ぬ浅慮であった」 「いや。私が聞きたいのはおまえ自身の問題だ」 「おれの…?」 大体、わかるのだ。 八神家の誰もが理解しているだろう。 私もそのことを、この身体を以て知っている。 「やはり、おまえは散(はらら)を見ている」 「む…」 「フォワード四人に、おまえ自身の姿を重ね見ているのだろう?」 いつ現れるかわからぬ改造人間。 立ち向かうべき新人達は、戦力と呼ぶには未だ頼りなく。 これは、未だ存在の確認できぬ散(はらら)と、 その姿を求める覚悟の関係に等しいものだと言えよう。 「…かもしれぬ」 「おまえの拳を何度受けたと思っている。 そのくらいは、わかるよ」 言葉にせねば伝わらぬ思いもあるが、 拳に乗せる重みは時として千の言葉に勝るのだ。 剣を合わせた者同士だからこそわかる。 「やはり、おれは未熟だ。 おれ自身の焦りが、訓練案にもにじみ出るとは」 平静そのものの表情ながらも若干うつむく覚悟に、 私は少し苦笑して。 「言っておくぞ、覚悟。 そんなおまえの姿が、私には嬉しい」 何を言っているのだかわからない。 覚悟の顔にそう書いてあるのに構わず。 「おまえ自身がいつも言っているはずだぞ。 痛くなくば覚えぬ、と。 おまえは今、自分の未熟さに痛みを感じているのだろう?」 「だが、おれ自身でそれに気づくことができなかった」 「そうでなければ、この世の誰もおまえの役には立たないだろうよ。 それとも、なのはや私、主はやては、おまえにとって無用の存在か?」 「そのようなことはない!」 鋭い目つきと声が帰ってくる。 固く揺るがぬ確固としたものを込めて。 何もそんな力んだ返事を返さなくともいいのに。 また思わず笑ってしまいながらも、私は目を合わせ、しっかり頷いた。 「…なら、それでいいということだ」 そうやって言い切ってくれる限り、私もそれに報いるとしよう。 今の返事、主はやてにも聞かせたかった。 「第一、おまえには可愛げが無さすぎる。 たまには隙を見せてくれなければ、共に戦う甲斐がない」 「隙を見せよと?」 「冗談だよ。困った顔をするな」 ともあれ、大丈夫そうだな。 慣れぬことをさせている自覚があるからか、 はやても覚悟のことを常に気にかけていて、 だから私もこうして仕事の合間を縫って話を聞いて回ることになる。 シャマルとヴィータも同じことだった。 いや、むしろ八神家ゆかりの人間全員が同じことだと言っていい。 だから、なのはの方から朝一番で私にコンタクトを取ってきたのだ。 不必要なまでの焦りが教練を行う上官から発せられては、肝心の部下が精神的に追い込まれかねない。 そういう実務的な面からも情報の共有を急いだというが、今回はそれが功を奏したと思いたい。 もっとも、覚悟に散(はらら)という宿敵ある限り、心の奥に潜んだ焦りはまたいつ顔を出すかわからないのだが、 それを本人に自覚させることができただけでも、今回は良しとするべきか… 「フォワードの四人だがな、明日は私との模擬戦だ」 「あなたの見立てはいかに」 「ここ十日を見る限り、キャロをどうにかしなければな」 「おれの、せいかもしれぬ」 魔法自体は遜色なく使えるのに、実戦形式の訓練になると、途端に失敗が込み始めるあの少女。 魔法を出すタイミングが早すぎて連携の足並みをバラバラに崩してしまうのだ。 特に、接近戦を挑まれるとその脆さはひどい。 最初のうちはそこまでまずいものでもなかったのだが、一度の失敗からどんどん軸がぶれるように悪化していき、 ここのところのフェイトの話題のほとんどがキャロの心配で占められてしまうような有様である。 「まあ、明日の立ち会いで確かめさせてもらおう。 おまえのせいかどうかもな」 「頼む」 覚悟に確かに頼まれてから、私は道場を後にした。 前へ 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのはStrikerS 第20話【無限の欲望】 フェイト「ジェイル・スカリエッティ。いくつもの世界で指名手配された広域次元犯罪者。 通信映像や音声のデータは数多く残っているものの、未だ、人前に姿を現したことはなく、 逮捕歴もない。多くの命を弄び、生体改造兵器を作り出し、管理局地上本部にテロをしかけ、 とうとう、古代の遺産まで呼び起こしてしまった。空へ上がる聖者の船を前に、私たちは」 シャッハ「騎士カリム。これが、あなたの予言にあった」 カリム「踊る死者たち、死せる王の下。聖地より帰った船。古代ベルカ、聖王時代の究極の質量兵器。 天地を統べる聖者の船。聖王の…ゆりかご」 はやて「一番なって欲しくない状況になってもうたんかな?」 カリム「教会の、ううん、私の不手際だわ。予言の解釈が不十分だった」 はやて「未来なんて、分からへんのが当たり前や。カリムや教会の皆さんのせいとちゃう。さて、どないしよか」 クロノ「はやて、クロノだ。本局は、巨大船を極めて危険度の高いロストロギアと認定した。 次元航行部隊の艦隊は、もう動き出している。地上部隊も協力して、事態にあたる。機動六課、動けるか?」 はやて「うん」 ウーノ「聖王の器とゆりかごは、安定状態に入ったわ。クアットロとディエチはゆりかご内より私と交代。 トーレとセッテ、セインはラボでドクターの警護。ノーヴェは、ディードとウェンディ、13番目と一緒に。 ゆりかごが完全浮上して、主砲を撃てる位置」 クアットロ「二つの月の魔力を受けられて、地上攻撃ができる軌道位置までたどり着ければ、ゆりかごはまさに無敵」 トーレ「ミッドの地上全てが人質だ。その状態なら、本局の主力艦隊とでも渡り合える!」 ウェンディ「そういや、一個疑問があるんッスけど」 トーレ「なんだ?」 ウェンディ「あのゆりかごの中にいる聖王の器とかいう女の子って、ぶっちゃけ何?」 スカリエッティ「ふふふ、私が教えようか?」 トーレ「ドクター」 スカリエッティ「今から、10年ばかり前になるかね。聖王教会にある司祭がいてね。 彼は敬謙な教徒にして、高潔な人格者だった。それゆえに、聖遺物管理という重職についていたんだよ」 ウェンディ「せい、いぶつ?」 クアットロ「聖王教会の信仰の対象。古代ベルカ時代の聖なる王様、聖王陛下の持ち物だったものとか、遺骨とかのことよ」 ウェンディ「へぇ~」 スカリエッティ「だが、司祭といえど人の子だ。彼は、ある女性への愛から、 それに手をつけてしまったんだよ。そして、聖ナイフに極わずかに含まれた血液からは、 遺伝子情報が取り出された。古代ベルカを統べた偉大な王。聖王の遺伝子データがね。 そうして、聖王の種は各地に点在する研究機関で極秘裏に複製され、再生を待った」 セイン「はい、ドクター。質問」 スカリエッティ「どうぞ、セイン」 セイン「レジアスのおっちゃんはまぁいいとしてさ。最高評議会だっけ?あっちのほうはいいの? ガジェットの量産とか人造魔道師計画の支援をしてくれたのってあの人たちだよね?」 スカリエッティ「ああ、そうとも」 セイン「ゼスト様とかルーお嬢様も評議会の発注で復活させたんでしょ? 評議会には評議会で何かプランとか思惑とかあったんじゃ」 スカリエッティ「レジアスも最高評議会も希望は一緒さ。地上と次元世界の平和と安全。 そのために、レジアスは計画を頓挫させられた戦闘機人に拘り、 最高評議会はレリックウェポンと人造魔道師計画に拘わった。平和を守り、正義を貫くためなら、 罪もない人々に犠牲を出してもいいと、なかなか傲慢な矛盾を抱えておいでだ」 セイン「ん~、何かよく分かんないなぁ」 ウェンデイ「ッスね~」 セイン「ともかく、スポンサーである評議会のことを無視して、あんなでっかいおもちゃを呼び出したりしたら、 怒られるんじゃないのって私は心配」 スカリエッティ「はははは、ちゃんと怒られないようにしてあるさ。君たちは何も気にせずに楽しく遊んできてくれればいい。 遊び終わったら我らの新しい家に、ゆりかごに帰ろう。そうすれば、世界の全てが我々の遊び場だ」 セイン『へぇ、相変わらずドクターの話はよく分からんねぇ~』 ウェンディ『そうッスね~。ま、あたしら別に夢や希望があるわけでもなし。生みの親の言う通りに動くしかないッスけどね~』 「ジェイルは少々やりすぎだな」 「レジアスとて、我らにとっては重要な駒の一つであるというのに」 「我らが求めた聖王のゆりかごも、奴は自分のおもちゃにしようとしている。止めねばならんな」 「だが、ジェイルは貴重な個体だ。消去するにはまだ惜しい」 「しかし、かの人造魔道師計画もゼストは失敗。 ルーテシアも成功には至らなかったが聖王の器は完全なる成功のようだ。そろそろ、良いのではないか?」 「我らが求むるは優れた指導者によって統べられる世界。我らがその指導者を選び、 その影で我らが世界を導かねばならぬ。そのための生命操作技術。そのためのゆりかご」 「旧暦の時代より世界を見守るために、わが身を捨てて永らえたが、もうさほどは長く持たぬ」 「だが時限の海と管理局は、未だ我らが見守ってゆかねばならぬ。ゼストが五体無事であればな。 ジェイルの監査役として最適だったのだが」 「あれは武人だ。我らには御せぬよ。 戦闘機人事件の追跡情報とルーテシアの安全と引き換えにかろうじて鎖をつけていただけだ。 奴がレジアスにたどり着いてしまえば、そこで終わりよ」 ミゼット「旧暦の時代。バラバラだった世界を平定したのは最高評議会の三人。 現役の場を次の世代、私たちや時空管理局ってシステムに託してからも、 評議会制を作って見守ってくれていた。レジィ坊や…、ジアス中将もやり方が時々乱暴ではあったけど、 地上の平和を守り続けてきた功労者。だから、彼らが今回の事件に関わっているなんて、 信じたくは、ないのだけれど」 クロノ「……」 はやて「理由はどうあれ、レジアス中将や最高評議会は、偉業の天才犯罪者、ジェイル・スカリエッティを利用しようとした。 そやけど、逆に利用されて裏切られた。どこからどこまでが誰の計画で、何が誰の思惑なのか、それはわからへん。 そやけど今、巨大船が空を飛んで町中にガジェットと戦闘機人が現れて、市民の安全を脅かしてる。 これは事実。私たちは、止めなあかん」 フェイト「ゆりかごには、本局の艦隊が向かってるし、地上の戦闘機人たちやガジェットも各部隊が協力して対応にあたる」 なのは「だけど、高レベルなAMF戦をできる魔道師は多くない。 私たちは3グループに分かれて各部署に協力することになる」 フェイト「別グループになっちゃったね。ごめんね、私、いつも大切な時に二人の傍にいられないね」 エリオ「そんな」 キャロ「フェイトさん、一人でスカリエッティのところになんて心配で」 フェイト「緊急事態のためにシグナムには地上に残ってもらいたいし、アコース査察官やシスターシャッハも一緒だよ。 一人じゃない。二人とも頑張って。絶対無茶とかしないんだよ」 キャロ「はい」 エリオ「それは、フェイトさんも同じです」 シグナム「ゼスト・グランガイツと融合器アギトだな」 リイン「え!?」 シグナム「騎士ゼストについては、ナカジマ三佐がご存知だったよ。元管理局員、首都防衛隊のストライカー級魔道師。 八年前に亡くなられたはずの、レジアス中将の、親友だそうだ」 なのは「今回の出動は、今までで一番ハードになると思う」 ヴィータ「それに、あたしもなのはもおまえらがピンチでも、助けにいけねぇ」 なのは「だけど、ちょっと目を瞑って今までの訓練のことを思い出して。ずっと繰り返してきた基礎スキル。 磨きに磨いたそれぞれの得意技。痛い思いをした防御練習。 全身筋肉痛になるまで繰り返したフォーメーション。いつもボロボロになるまで私たちと繰り返した模擬戦」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「ぐぅ」 なのは「目、あけていいよ。まぁ、私が言うのもなんだけど、きつかったよね」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「あははは」 ヴィータ「それでも、四人ともここまでよくついてきた」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「え?」 なのは「四人とも、誰よりも強くなった、とは、まだちょっと言えないけど。だけど、どんな相手がきても、 どんな状況でも絶対に負けないように教えてきた。守るべきものを守れる力。救うべきものを救う力。 絶望的な状況に立ち向かっていける力。ここまで頑張ってきた皆は、それがしっかり身についてる。 夢見て憧れて、必死に積み重ねてきた時間。どんな辛くても止めなかった努力の時間は、絶対に自分を裏切らない。 それだけ、忘れないで」 ヴィータ「きつい状況をビシっとこなしてみせてこそのストライカーだからな」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!」 なのは「じゃあ、機動六課フォワード隊、出動!」 ヴィータ「いってこい!」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!!」 なのは「スバル。ギンガのこともあるし、きっと」 スバル「あの!違うんです!」 なのは「っ」 スバル「ギン姉はたぶん、大丈夫です。私が、きっと助けます。今は、なのはさんとヴィヴィオのことが」 なのは「ありがとう、スバル。でも大丈夫だよ。一番怖いのは、現場に行けないことだったんだけど、 八神部隊長がそこをクリアーしてくれた。現場に行って全力全開でやっていいんだったら、 不安なんて何もない。ヴィヴィオも大丈夫。私がきっと助けてみせる。だから、心配ないよ」 スバル「あ」 なのは「スバルが憧れてくれたなのはさんは、誰にも負けない、無敵のエースだから」 スバル「はい」 なのは「スバルだって、うちの自慢のフロントアタッカーなんだからね。相棒と、 マッハキャリバーと一緒に、負けないで頑張ってきて」 スバル「はい!」 ティアナ「出動前に何泣いてんのよ」 スバル「なのはさん、頑張ってって言おうと思ったのに」 ティアナ「逆に励まされて帰ってきた?」 スバル「うん」 ティアナ「馬鹿ね~。あんたがなのはさんを励ますなんて10年早いってことでしょ? なのはさんを励ましたいなら、今よりずっと強くなって立派にならなきゃさ」 スバル「うん」 はやて「ほんなら、隊長陣も出動や!」 なのフェ「うん!」 ヴィータ「おう!」 カリム「機動六課隊長、副隊長一同。能力限定、完全解除。 はやて、シグナム、ヴィータ、なのはさん、フェイトさん、皆さん、どうか」 はやて「しっかりやるよ」 フェイト「迅速に解決します」 なのは「お任せください」 カリム「うん。リミット、リリース!」 フェイト「なのは」 なのは「フェイトちゃん」 フェイト「なのはとレイジングハートのリミットブレイク、ブラスターモード。なのはは言っても聞かないだろうから、 使っちゃ駄目、とは言わないけど。お願いだから、無理だけはしないで」 なのは「私はフェイトちゃんのほうが心配。フェイトちゃんとバルディッシュのリミットブレイクだって、 凄い性能な分危険も負担も大きいんだからね」 フェイト「私は平気。大丈夫」 なのは「んぅ、フェイトちゃんは相変わらず頑固だなぁ」 フェイト「な、なのはだって、いつも危ないことばっかり」 なのは「だって、航空魔道師だよ?危ないのも仕事だもん」 フェイト「だからって、なのは無茶が多すぎるの!」 はやて・ヴィータ「はあぁ」 フェイト「私が、私たちがいつも、どれくらい心配してるか」 なのは「知ってるよ」 フェイト「ん」 なのは「ずっと心配してくれてたこと、よく知ってる。…だから、今日もちゃんと帰ってくる。 ヴィヴィオを連れて、一緒に元気で帰ってくる!」 フェイト「ぁ、うん!」 はやて「あの、フェイトちゃん。そろそろ」 フェイト「あ、ぁ、うん!」 ヴィータ「フェイト隊長も無茶すんなよ。地上と空は、あたしらがきっちり抑えるからな!」 フェイト「うん!大丈夫」 なのは「頑張ろうね」 フェイト「うん。頑張ろう」 なのは『悲しい出来事。理不尽な痛み。どうしようもない運命。そんなのが嫌いで、 認められなくて、撃ち抜く力が欲しくて…私はこの道を選んで、 おんなじ思いを持った子たちに技術と力を伝えていく仕事を選んだ。 この手の魔法は、大切なものを守れる力。思いを貫き通すために、必要な力。待っててね、ヴィヴィオ!』 ドゥーエ「あなたが見つけ出し、生み出し育てた異能の天才児、 失われた世界の知恵と限りない欲望をその身に秘めたアルハザードの遺児。 開発コードネーム。アンリミテッドデザイア、ジェイル・スカリエッティ。 彼を生み出し、力を与えてしまった時点でこの運命は決まっていたんですよ。 どんな首輪をつけようと、いかなる檻に閉じ込めようと、扱いきれるはずもない力は、必ず破滅を呼ぶものです」 ヴィータ「中への突入口を探せ!突入部隊!位置報告!」 なのは「第7密集点撃破!次!!」 隊員「は、はい!」 次回予告 なのは「ゆりかごへ突入する私と、ヴィータ副隊長」 フェイト「スカリエッティのアジトへ突入する、私とシスターシャッハ」 なのは「そして、フォワードたちも…」 フェイト「次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS第21話」 なのは「決戦」 なのフェ「Take off!」